「都立の星」がオリックスの窮地を救った。雪谷高出身の6年目、鈴木優投手(23)が西武の山賊打線を5回無安打7奪三振に抑える快投で、プロ初勝利を挙げた。

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まさに救世主だった。鈴木がプロ2度目の先発で強力打線相手に「5回ノーヒッター」の快投を演じた。最大のピンチは4回、先頭森に3球目を投げ終えた直後に迎えた。右手を振るしぐさで投手コーチらが駆け寄る。ベンチで治療して、再びマウンドへ。森を空振り三振に仕留め、山川には縦割れのスライダーで2打席連続の空振り三振。外崎もスライダーで三ゴロだ。

「途中、腕をつったアクシデントもありましたが、逆にうまく力が抜けました。手をつってからの投球は覚えていないくらいに、集中して投げられました」

チームは7連敗中。この日も敗れれば開幕11戦を1勝10敗で、阪急時代の61年以来、59年ぶりの屈辱だった。勝率1割を切る瀬戸際でも重圧とは無縁。「連敗を止める思いは正直…。あまり考えず、1死でも多くしっかり抑えるだけ。どうせやるなら楽しむ」。5回降板も無安打無失点7奪三振で、大仕事を果たした。

挫折から始まった投手人生だった。都立の雪谷高で相原健志監督(53=現日体大荏原監督)に適性を見いだされて1年時に捕手から転向。だが、現実は甘くない。1年秋に公式戦初先発も、1回6失点。痛打を浴び続けても、指揮官は降板させなかった。傷心の鈴木に言った。「お前のことを将来的に大きく伸ばそうと思ったから、代えなかったんだ」。マウンドは孤独だ。耐えることを覚えた。

この日は立ち上がりから低く沈むツーシームを多投して敵を寄せ付けない。セットポジションで投げ込む独特のフォームで打者との間合いを狂わせた。ともに都立の学びやで必死に吸収した技術だ。相原監督は言う。「捕手だったので、小さなテークバックで、セットで投げさせて。あの頃からです」。野球の名門でなくても、のし上がれる。高卒の都立高出身者ではプロ野球史上初勝利。まさに「都立の星」の輝きだった。

ウイニングボールは両親へ。「2軍の投手コーチ、裏方さん…。たくさんの方に支えていただいた。(記念球を)あげたい人はたくさんいる。3個くらい」と感謝した。エース山岡を欠いて先発陣が不安定な状況で殊勲の働き。西村監督も「素晴らしい投球。今日の勝ちを明日からどうつなげるか」と言う。死線をさまよった勇者が、力強く前に進み始めた。【酒井俊作】

◆鈴木優(すずき・ゆう)1997年(平9)2月5日、東京都生まれ。雪谷3年夏は東東京大会8強。14年ドラフト9位でオリックス入団。15年9月30日西武戦で1軍デビュー。昨季まで通算3試合で0勝0敗、3回2/3、自責点8、防御率19・64。今季は6月26日ロッテ戦で初登板し、3回、自責点2でプロ初ホールドを記録した。181センチ、83キロ。右投げ右打ち。今季推定年俸530万円。