「お父さん、勝ったよ」-。サイドスローに転向した巨人大江竜聖投手(21)が、男手1つで育ててくれた父にプロ初勝利をささげた。1点リードの6回に登板。1回を無失点に抑えた。先発畠が危険球退場で4回1/3を1失点で降板。緊急登板の鍵谷から大江、大竹、高梨、中川で1点のリードを死守した。チームは連敗を2で止め、2位ヤクルトとの差を3・5に広げた。

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大江がプロ初勝利を手にした。「怪獣のように強い感じの名前が良くて」という「竜」と父広志さんがファンだという松田聖子の「聖」の名を授かった左腕。勝利球は「父親に渡そうと思っています」。小学校低学年時から、父子家庭の中、愛情を注いでくれた。昨年の父の誕生日には「前のものは、汚くなっているから」とラコステのカバンをプレゼント。仕事で息子の投球を見られなかった最愛の父へ、何よりの贈り物を届けた。

マイクを持たなくとも、「下げた」左手でステージで輝いた。1死から1発を放っていた西川。大きく踏み込んだステップ、目いっぱいに伸ばしたサイドハンドからのスライダーで投ゴロに片付けた。上手投げだった左腕は、昨季までの3年間で1軍登板数は8。個人調整期間中に退路を断った。首脳陣から「腕を下げたら」と提案を受け「サイドにします」と宣言。サイドの経験がある山口、会田両3軍投手コーチ、1軍では同じタイプの高梨から投球術を吸収し、東京ドームのスポットライトを浴びた。

幼少期、遊びに行く時もリュックサックにバットを入れていた少年が、大人になった。これまで杉内(現2軍投手コーチ)、内海(現西武)ら先輩の自主トレに参加していたが、今年は初の独り立ち。母校・二松学舎大付のグラウンドの近くにマンションを借り、並々ならぬ思いでシーズンに入った。原監督に「明日はあがらせます。いると使いたくなるから」と言わしめるほどの存在と化した21歳。小学校の時、サヨナラホームランを打たれ、泣いていた子どもは、竜のごとく勇ましく、往年のアイドルのようにファンを魅了した。【栗田尚樹】

◆大江竜聖(おおえ・りゅうせい)1999年(平11)1月15日、神奈川県座間市生まれ。二松学舎大付では1年夏と2年春に甲子園出場。16年ドラフト6位で巨人入団。3年目の19年3月29日広島戦でプロ初登板。173センチ、78キロ。左投げ左打ち。今季推定年俸620万円。

▽巨人宮本投手チーフコーチ(大江について) 前向きにやったから(習得が)早かったよね。器用なピッチャー。活躍を期待しています。