日本ハム上沢直之投手(26)が完全復活した。楽天13回戦(札幌ドーム)で今季のチーム一番乗り、自身2年ぶり、本拠地では6年ぶりとなる完投勝利でチームトップタイの5勝目を挙げ、チームの連敗を4で止めた。失点は5回に浴びたソロ本塁打のみで、走者を背負っても粘り強くピンチを断ち切った。左膝への打球直撃から441日。よみがえった不屈の右腕が125球の熱投で苦境のチームを救った。

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顔色を変えることなく、9回のマウンドへ向かった。先頭打者に内野安打こそ許したが、上沢は最後まで投げきった。笑顔はない。「正直、ケガをする前より、まだ体力が足りないな…と。8-1で完投して、喜んでも…ね」。2年ぶりの完投勝利、札幌ドームではプロ初完封勝利を挙げた14年9月15日オリックス戦以来、2178日ぶりに1人で投げきっても、先発陣の柱としての自覚を漂わせた。

ユニホームの右太もも付近は、拭った血で何本も線が引かれていた。「血豆が割れちゃって」。8回までにできていた右手中指の血豆がつぶれても、今季最多125球の熱投は最後まで力がこもっていた。故障明けのシーズン。栗山監督も慎重な起用を続けてきたが、この日は「(9回も)投げさせてあげたいという気持ちが強くなった」。4連敗と嫌なチームの流れも止めるべく、最後まで上沢に託した。

上沢はプラスの思考整理ができる。「低めに狙ってもいかないので、あきらめました、もう」。今季は直球の制球が思うようにいかなかったが、修正したのは精神面。「コントロールを気にして、低めに弱い球を投げるくらいなら、高めにしっかり強い球で、コースはきっちり意識してやる」。ベストを尽くすために、柔軟な発想の転換ができるのが強みだ。

だからピンチを迎えても、慌てず、最善策を考え、実行できる。必死な姿はバックの好守も呼び、試合の流れを引き寄せる。この日も3回無死一、三塁から2度のセーフティースクイズを仕掛けられても、清水や中田の好守に救われた。「あそこは、あのままゼロでいかないと」とピンチを断ち切った。決勝打を放ったのは、ドラフト同期の同学年で、昨季はともにリハビリ組として過ごした松本だった。「特に励ましあったりとかはしてないですよ、気持ち悪い」と笑顔で冗談を交えながら、「同じ日にヒーローになれたのはうれしい」。チームも再び勝率5割に復帰。大事だった試合で完投してくれる、頼りになる上沢が、完全復活した。【木下大輔】

▽日本ハム木田投手コーチ(上沢に)「初回から落ち着いて打者や状況を見てしっかり投げてくれていた。今シーズンは6連戦が続いていくので、試合で長いイニングを投げてくれるのは、いろいろな意味でチームの助けになる」