ウイニングボールを握りしめた大久保秀昭監督(51)は、ベンチ前で胴上げの声をかけられた。「これぐらいで胴上げは。優勝以外では」と断るそぶりを見せたが、すぐに「お願いします」とニヤリ。教え子たちの手で宙に舞った。

5年ぶり50回目となる本戦出場を、第1代表として決めた。

名門立て直しを託され、ENEOSに戻ってきた。06~14年まで率いた時は、都市対抗優勝3回。15年からは母校の慶大を率い、6大学で優勝3回、昨秋は神宮大会も制した。だが、その間に古巣は低迷。東芝、三菱パワーの後塵(こうじん)を拝すシーズンが続いた。

昨年12月に復帰し、チームにまず抱いた印象は「物足りない。何か冷めている」。勝てない時間が、そうさせたのか。「自信喪失というか。会社からのプレッシャーも感じながら」。休部のうわさも流れるほどだった。ただ「選手たちも勝ちたい思いは持っている」と見抜いてもいた。

データやトレーニング部門から見直し、個々の技量を上げることに努めた。練習から具体的に指示した。今春のコロナ禍で実戦機会が減ったが、むしろ「監督・大久保が、どういう方向にチームを持っていこうとしているのか。選手も理解してくれた」と熟する時間になった。「会社にも、あまり来るなと言われて。なら、寮で練習するしかない」と一体感を高めていった。

変化は自粛開けに訪れた。「激変した。一番は投手力が整備された」。ケガしていたエース藤井聖投手(23=東洋大)が復帰。オープン戦では個々の役割を明確にし、強豪に勝っていった。都市対抗予選に臨む機は熟した。

15日の東芝戦は、藤井の好投で3-0で勝利。この日の三菱パワー戦に勝てば、本戦出場が決まる。苦しい展開ではあった。5回に1点を勝ち越すも、6回以降は2番手大野を打ちあぐねた。相手の攻撃を細かい継投でしのいでいったが、8回に追い付かれる。だが、そこで踏ん張った。9回、10回、11回は走者を許しながらも、好守連発で点を与えない。すると、延長12回2死から小豆沢誠内野手(25=上武大)が決勝の2点適時二塁打。夏前、大久保監督自ら1000本ノックを課した選手だった。

自らの手腕は誇らない。「山岡監督は、僕が(前回就任時に)信頼していた選手。山岡監督が苦労したのは僕の責任でもある」。だから「小豆沢や川端は3年目の選手。山岡監督が取ってきた。『君たちが頑張ることが(前任の)山岡監督に報いる事になる』と言ってきた。その通りになった」と、うれしそうだった。

11月22日開幕の本戦(東京ドーム)までの取り組みを問われ「変わらずやるだけ。11月、12月まで野球がやれるのはありがたい」と、しみじみと話した。チームスローガン「ドラマティックチェンジ」の通り、コロナ自粛明けにチームは“激変”。そのまま、復活ののろしを上げた。

こう付け足した。「東京ドームで1勝、2勝と積み上げた時、本当にそうなる」。真のチェンジへ、道半ばだ。【古川真弥】