“ほぼ金星”の上々デビューだ。楽天ドラフト6位右腕の滝中瞭太投手(25)がプロ初登板初先発に臨み、ソフトバンク打線を相手に6回途中5安打1失点と好投。プロ初勝利はお預けとなったが、力を見せた。チームの同カードの連敗は5でストップ。前夜に自力優勝の可能性が消滅も41試合を残し、望みはある。楽天と“縁”のある社会人卒右腕が反攻への光をさした。

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黄色に染まるスタンドの一片から、小さな拍手音が聞こえた。1点リードの6回1死三塁。マウンドを降りた滝中が左翼席上段に陣取る30人ほどの楽天ファンからねぎらわれた。三塁側ベンチ前にも大勢のチームメートが手を出して出迎えてくれた。「緊張感はありました。神経を使いながら投げたので疲れはありましたけど、あの6回は行きたかったです」。ピンチを残して降板も“ドアウェー”の空気感にのまれず、堂々と強打者たちと渡り合った。

“金星未遂”への道は不思議? な縁からつながる。昨年10月19日、ドラフト会議当日。社会人ホンダ鈴鹿の寮の自室にいた滝中の興味は「楽天」にあった。1度の指名漏れを経て、ついにつかんだプロ入り…ではなく、ポストに届いた「楽天ゴールドカード」。「やっときたな」。10日前に申請。ワクワクしながら封を開けた。

とたんに、同期の声がとんだ。「お前、楽天だぞ!」。え? ゴールドカードが届いたのがばれてる? 違った。「楽天イーグルス」からドラフト6位指名。急いで寝癖を直し、ジャージーから正装へ。4階の自室から1階の特設会見場へ駆け降り、花束を受け取る。「まさか指名されるとは…」。人生が変わった。

失うものはない。「勝負できることに喜び、楽しんで、打たれたら仕方ない」と割り切り思考で、王者の胸を借りた。最速148キロの直球、100キロ台の縦割れカーブ、カットボールにツーシーム、フォーク、ややシュート気味に落ちるチェンジアップと多彩な球種をフル活用。5安打中、長打はゼロ。「四球は何も起きない」と1四球にとどめ、とことん勝負に挑んだ。

小学、中学時代は控え選手。消防士になろうとも考えた。前日に人生で初めて訪れたペイペイドームで立った1軍マウンド。「チームの勝利に貢献できたかなという部分が大きかった。投げきれて抑えられた部分は自信にしたいです」。力で白星を。金星とは、言わせない。【桑原幹久】

◆滝中瞭太(たきなか・りょうた)1994年(平6)12月20日、滋賀・高島市生まれ。小学3年から「新旭スポーツ少年団」で内野手として野球を始め、湖西中では軟式野球部に所属。高島高-龍谷大を経てホンダ鈴鹿で活躍。19年ドラフト6位で楽天入団。今季推定年俸900万円。180センチ、93キロ。右投げ右打ち。