「ピッチャーというのは自己中(心的)な生き物。ある程度気持ちよく投げさせてもらうのが一番いいと思う」。現役2位の141勝を挙げる涌井が「捕手に求めることは?」との問いに答えた。ダイヤモンドのど真ん中が仕事場。野球で唯一、白球という主導権を握っている。捕手が“女房役”と称されるように、投手の“亭主関白”ぶりをいかに制御できるかが“夫婦円満”へのカギとなっていく。

「名投手が名捕手を生む」。涌井は西武で炭谷、ロッテで田村と主にバッテリーを組み、成長を促してきた。今季から新加入した楽天では2年目の太田と開幕前から呼吸を合わせた。「太田とは開幕前からずっと組んでいたので、ある程度何を投げたいかは伝わると思う」。昨季3勝にとどまったことがうそのように、開幕から無傷の8連勝。6・7月度のバッテリー賞にも選出された。

意思疎通を図る。言葉にすれば簡単だが、他人同士が心を読み取りあうことは容易ではない。涌井は太田をはじめとした捕手陣へ、人としての基本を説いた。「球場に来たらまずは『おはようございます』。朝のあいさつなしに、帰る時に『お疲れさまでした』はないよ」。人間関係において「印象」は公私関係なく、相手の出方を変える。一瞬の迷いが命取りになるグラウンドで戦い続ける右腕だからこそ、あいさつの重要性を理解している。

2年目捕手の太田は開幕からスタメンマスクに定着しかけたが、打撃不振も重なり2日に登録を抹消。涌井は太田と組んだ8月26日ロッテ戦で自身の連勝が止まり、足立と組んだ2戦でも勝ちきれなかった。前回登板の16日オリックス戦で3戦ぶりに太田とバッテリー。3敗目を喫したが「首を振る回数も少なかった」と呼吸が合い、6回1失点と好投した。23日の相手は今季初黒星を喫した古巣ロッテ。意気込みには「特にないです」と平静を保ったが、リベンジに燃えないはずがない。【桑原幹久】