苦労続きの「下妻物語」から「逆転V物語」が加速する。高卒8年目の楽天下妻貴寛捕手(26)が、プロ初本塁打となる先制決勝ソロを放った。2回にロッテ岩下の初球直球を左翼席へ運んだ。18年に右肩のけがから育成契約、昨季は独立リーグへの派遣も経験。試合前時点で打率0割台だった「8番」打者が、値千金の通算3安打目でチームを今季初の5連勝に導いた。2位ロッテとは2・5、首位ソフトバンクまで4・5ゲーム差に迫った。

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スクリーンには「063」。まさか…のシーンに観客がわいた。2回2死。主役は「8番」下妻。ロッテ岩下の初球、ど真ん中147キロ直球をドンピシャで捉えた。左翼席前段へ先制のプロ1号。「一番打ってびっくりするバッターが打ったので…。入ってくれ!と思っていました」。引き立て役の岩下に唇をかませ、じだんだを踏ませた。8年目で通算3安打目。まさに値千金の1発だ。

茨城ではなく、山形から始まった「下妻物語」は回り道の連続だ。酒田南時代、身長186センチの大型捕手として名をはせた。12年ドラフト4位で地元東北の楽天へ入団し2年目に1軍デビュー。4年目の16年にはU23W杯で侍ジャパンのユニホームも着た。だが17年までの5年間で通算13試合の出場で1安打。同学年のエンゼルス大谷らの活躍に「高校の時は同じステージにいたけれど、プロに入って力の差を感じました」。右肩痛も重なり18年オフに育成契約。出場機会を与えるチームの方針で昨季はBC武蔵へ派遣された。

いばらの道が分岐点になった。真新しい道具、大人数が集まる球場でなくとも、目を輝かせて白球を追う独立リーガーの姿に初心を思い出した。「グラウンド整備もライン引きも自分たちでやる。でも野球をやっている人はみんな一緒。プロ野球は恵まれているなと」。今季からソフトバンク城島球団会長付特別アドバイザーの打法をまね、バットを最短で出すフォーム修正に着手。2月に支配下へ返り咲いた。ここまではバスター打法にしていたが、前日にコーチから助言され、この日から「城島打法」へ戻し、即結果を出した。

ロリータ…ではなく、あごひげを伸ばしたワイルドな風貌。先発松井を始め、落ち着いたリードで完封勝利を引き寄せた。「13年は違うチームの人が優勝したような感じ。自分が携わった中で優勝したい」。逆転Vドラマのエンドロールに名を刻む。【桑原幹久】

◆下妻貴寛(しもつま・たかひろ)1994年(平6)4月15日、山形県酒田市生まれ。酒田南では3年夏に甲子園出場。主将として選手宣誓を行った。12年ドラフト4位で楽天入団。14年9月10日オリックス戦でプロ初出場。18年オフに戦力外を受け、19年は育成契約。同年6、7月にはBCリーグ・武蔵に派遣されプレー。今年2月に支配下へ復帰した。186センチ、85キロ。右投げ右打ち。

▽楽天三木監督(昨季2軍監督として指導した下妻に)「階段を上っていくとこを見ていると、いろいろと感慨深い。さらに上を目指してやってもらいたい」