巨人には「マトリックス・和真」がいる。岡本和真内野手(24)が4回の攻撃時に、映画「マトリックス」ばりの動きで中日二塁手を翻弄(ほんろう)。7点目のホームを踏んだ。銃弾が止まって見えるかのように、2回には難しいボールをスタンドイン。外角低めをすくい上げ、右中間へリーグ独走の23号3ランをぶち込んだ。主役の名に恥じない4打点の活躍で、チームは5連勝。優勝マジックを26に減らした。

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ネオは上体を反りながら、エージェントの放った銃弾を何発も避けた。真っ黒なサングラスは掛けていなくとも、岡本にもキアヌ・リーブスの魂が宿った。4点リードの4回1死一塁。丸の二塁へのゴロで一塁からスタート。近くに預言者はいなくとも、相手の動きは手に取るように分かる。

二塁手・阿部が打球を捕球したタイミングに合わせ、岡本もその場で減速。右、左足と交互にステップを踏み、上体を反らしながら左斜めに後退。もちろん両手も交互に回し“エージェント阿部”の左手をかいくぐった。「まあ、あまり振り返りはないですけど」。その目は先を捉えていた。相手が一塁へ送球する間に、二塁へスライディング。いったんはアウトの判定を受けたが、塁上で両手を伸ばし、堂々とセーフをアピール。リプレー検証でセーフを勝ち取り、その後、犠飛で7点目のホームを踏んだ。

救世主と呼ばれたネオと同じく、岡本も主役級の活躍でチームを幾度も救ってきた。2点リードの2回もそう。2死一、二塁。1ストライクからの2球目は、外角低めの142キロ直球。見逃せばボールだったかもしれないコースに対して「打てる球がきたら、打とうと思ってました」。銃弾が止まって見えるかのように、完璧にアジャスト。逆方向の右中間へ23号3ランをたたき込んだ。

トリニティ、モーフィアスといった仲間が周りにいなくとも、岡本の前には3番坂本がいる。亀井が抹消となっても、後ろは5番丸、6番中島と頼もしい先輩が構える。1回は坂本が同点打でつなぎ、岡本が内野ゴロで勝ち越し点。2回の1発も坂本が四球を選び、回ってきたチャンスだった。「みなさんがチャンスで回してくれるので、そのおかげかと思います」と4打点を挙げた。原監督も「ずっと、コンスタントにいいですね」と目を細めた。

仮想世界ではない。現実世界で本塁打、打点でリーグの打撃2冠に君臨する。5連勝の主役は「マトリックス・和真」。優勝マジック26となった今、12年以来8年ぶりの日本一奪回へ-。その救世主に、この男がなる。【栗田尚樹】

◆マトリックス 99年に第1作が公開されたSFアクション映画。キアヌ・リーブス演じる主人公のネオは、自分が生きている世界が仮想世界でコンピューターにより操作されていることに気付き、救世主となり人類をコンピューターの支配から解き放つために戦うことを決意。電脳空間「マトリックス」を守るために作られた人間型ソフトウエアのエージェントが放つ銃弾を上体をそらしながら避ける姿は有名。22年に第4作が公開される。