阪神藤浪晋太郎投手(26)が自己最速タイの剛球を連発した。中日戦の8回に登板。直球は160キロを5度も計測。甲子園をどよめかせる投球で圧倒した。2三振を奪い、1回無安打無失点で完璧に抑えた。コロナ禍により、中継ぎに配置転換して4度目の登板で、完全復活の予感を漂わせた。2日から甲子園で宿敵と4連戦。強力リリーバーが巨人のマジック減らしに立ちはだかる。

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藤浪は最後、代打井領から空振り三振を奪うと「シャーッ」とほえた。不安が消えた、自信に満ちあふれた勝負師の顔つきだ。

「バトンを受け継いで、人の勝ちだったり勝利だったりを背負う、雰囲気の違いは感じています」

公式戦7年ぶりの救援登板から4戦目。人一倍責任感の強い26歳は仲間の感情を背負うことで、本来の躍動感を取り戻しつつある。

2点リードの8回表。大阪桐蔭の先輩でもある岩田の454日ぶり白星が懸かっていた。「緊張しました。なんとか抑えたい気持ちが強かった」。7番堂上の初球から158キロ。カットボールで空振り三振に仕留めて勢いが加速した。

8番木下拓への2球目、外角高めで空振りを奪うと球場がザワついた。自己最速タイの160キロ。16年9月14日広島戦以来の大台到達だ。続けて外角低め160キロで二ゴロ。代打井領への初球にも3球連続となる160キロを投げ込んだ。

「毎回どよめきとか歓声を楽しんでいる余裕はまだちょっとないので…」

冷静な本人をよそに甲子園は1球1球、もうお祭り騒ぎ。「狙ったわけでもない。勝負する中、全力を出す中でたまたま出た」。計5球も160キロを投じ、1回を完全投球。「(イニングが)短い方がリミッターが外れる。勝手に自分の中で切り替わっている」。先輩の白星をつなぎ、ホッと胸をなで下ろした。

孫は、祖父が残した言葉を今も忘れていない。

父方の祖父、功さんが3年前の17年6月、天国へ旅立った。亡くなる間際、制球難に苦しむ孫の表情が気になったのか、久々にメールをくれていた。

「さえない顔してるぞ」-。

返信の言葉を見つけられないまま、祖父は息を引き取った。「せっかく連絡をくれたのに…」。後悔してもしきれない記憶。もうこれ以上、周りに心配をかけたくはない。

この日も登板後、試合後には笑みがこぼれた。誰の目にも充実して見える表情に、期待が膨らむ。

「いいところで投げさせてもらってる。チームの勝ちを背負って、厳しい場所で投げさせてもらっている。いい経験にしたいし、もちろんチームの勝ちにつながる投球をしていきたい」

藤浪が、息を吹き返した。【佐井陽介】

◆藤浪と160キロ 初めてマークしたのは16年9月14日広島戦(甲子園)。1回1死満塁、5番鈴木誠への3球目。外角低めに外れた直球が、160キロを計測した。10年ヤクルト由規161キロ、そして藤浪の前日9月13日の日本ハム大谷翔平164キロ(後に165キロへ更新)に続き、日本人3人目の快挙だ。試合後には「球速より球質です。ただ、打者を押し込めている感覚はありました」と手ごたえを口にした。