東都大学リーグ4年生の進路がほぼ決まった。東洋大・納(おさめ)大地外野手(4年=智弁学園)は、大学卒業を機に野球から離れることを決意。高校時代にはセンバツを制し、U18アジア選手権でMVPにも輝いた男は、夢であるパイロットを目指して歩み出す。

人生の転機は大学2年だった。智弁学園では「1番二塁」で、3年春にセンバツ優勝。高校日本代表にも選ばれ、U18アジア選手権ではMVPを獲得した。東洋大進学後は、1年春からリーグ戦出場を果たした。順風満帆に見えたが、2年時に不調でベンチを外れると、今まで経験したことのない屈辱感に襲われた。「周りに見る目がないから試合に出られないんだ」。練習に身が入らず、遊びを優先させた。そんな状態で2カ月たった頃、ふとグラウンドを見ると、野球に打ち込むチームメートたちが輝いて見えた。「周りの環境のせいにするのは間違っている。やれるところまでやってみよう」。

気持ちを入れ替えて野球に取り組み、3年春の大学選手権からスタメン復帰。同年秋も10試合に出場した。就活に入ると、不動産会社をはじめ、3社から内定をもらった。それでも「4年春のリーグ戦でアピールして、社会人野球がどこかあれば」と、春のリーグ戦に野球人生をかけたが、コロナ禍で同リーグ戦は中止に。そんな中でよみがえったのが、小さいころからの夢だった。「後悔する人生にしたくない」と、憧れていたパイロットへの道に進むことを決意した。

幼いころは、空港でワクワクした。あの気持ちは今でも忘れない。「大学2年の時、チームメートにこの夢を話したら、みんなに笑われました。でも、夢のままでは終わらせたくないですから」。

逃げの人生と言われないために-。今年4月には宅地建物取引士(宅建)の資格取得に挑戦。約6カ月、死に物狂いで勉強した。早朝から図書館で勉強。練習では、単語帳をポケットに忍ばせた。練習が終わると、寮の門限まで近くのファミレスへ。野球と勉強を両立し、合格率20%未満と言われる難関の国家資格を見事突破した。これを機に内定を断り、両親にパイロット挑戦と、そのために海外留学することを伝えた。

現在は米国の2、3の航空コースがある大学から、いい返事を得ている。コロナ禍が落ち着き次第、あらためて入学の手続きを踏む予定。それまでは、勉強を続けながらアルバイトで費用をためていく。

野球には未練はない、と言い切る。「強がりではありません。今は勉強も楽しい。もっと世界を知りたい。今まで野球以外、何もしてこなかったから。でも、野球があったから、ここにたどり着いた。野球がなければ自信を持って前に進めませんでした」と、すがすがしい笑顔を見せた。

「人生、野球だけじゃないで。世界は広い。おもろいこと、いっぱいあるやん!」と胸を張って言える。チームメートからは「お前、人生、楽しんでるな」と言われる。「留学も楽しみ。あれもこれも…やりたいことばかり。人生、時間が足りないです」。野球を通して培われた精神で、新たな人生を切り開く。納は、生き生きと輝いている。【保坂淑子】

◆納大地(おさめ・だいち)1998年(平10)7月22日生まれ、奈良県出身。小1から野球を始め、羽曳野ボーイズを経て智弁学園に進学。1年夏、3年春、夏の甲子園出場し3年春のセンバツは全国制覇。高校日本代表にも選ばれU18アジア選手権ではMVPを獲得した。東洋大では1年春からベンチ入り。175センチ、70キロ。右投げ左打ち。