最速163キロ右腕のロッテ佐々木朗希投手(19)が2日、沖縄・石垣島キャンプで日刊スポーツのオンラインインタビューに応じた。南国で迎えた節分。いま退治したい鬼は自分だった。「心と体のコントロール」が、19歳が真っ向から取り組む難問。精神的な成長を己に求め、公式戦デビューが期待される2021年の日常テーマを「自分との約束を守る」に定めた。3日もブルペンに入る予定。来るべき時へ高めていく。【取材・構成=金子真仁】
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佐々木家3兄弟が大きくなった最近では、恵方巻きが季節の変わり目だった。「おにはそと」で盛り上がった幼少期が懐かしい。遠く北東の方角にある冬の大船渡を思いながら、南の島で汗を流す朗希には今、何よりも退治したい鬼がいる。
「心と体をコントロールすることです」
プロ2年目にあたって、克服すべき最大の課題に挙げた。昨年12月の契約更改で、ロッテにはこの「心と体」のフレーズを口にする若手が多かった。仲間たちと同じように「重点的にやっていきたい」と、自身と正面から向き合っていた。
パフォーマンスの再現性を高めるため、第3者への説明が難しい“感覚”の自己理解を深める。大きくなった肉体で、新しいフォームにも着手する。さらに「心は本当に大事だと思うので」と続けた。
「調子が良かったら次はどう臨むのか、悪かったら次はどうするか。心のコントロールをできないと、投手なのですぐボールに出ちゃうと思うので」。
不安と書かれた甘い球を、猛者たちは見逃してくれない。ずっと三陸で暮らしてきた若者が上京し、プロ野球の世界をつぶさに目撃してきた。1軍にほぼフルで同行し、肉体強化に励んだ。年末には「来年から試合に投げるにあたってすごくいい経験だったなと思います」と振り返っていた。開幕戦の高揚感と緊迫感、先発投手の試合への入り方…時に外国人選手たちにも、英語を懸命に使って積極的に質問した。外から眺めたプロ野球、内からのプロ野球。どんな部分が特に印象に残っているのだろう。
「試合に投げていないのでまだ分からないところもあるんですけど、プレッシャーと闘うことだったりとか。あとは見ていて思ったのは、状態が悪くても試合に臨まなきゃいけないですし、その中でやっぱり結果を残していかなくちゃいけないので、そういうところが大変そうだなと思いました」
前例のない高卒ルーキーの英才教育を、疑問視する声もあった。今もある。それらにも向き合いながら、先発投手として活躍する日を夢見てきた。
今年11月に20歳の誕生日を迎える。「そんな、特にないですけど」。成人することに強い感慨はない。上京し1年間、自身の変化もまだよく分からない。オフには大船渡ナインとも再会した。小、中、高と同じ港町でずっと一緒に過ごしてきた気心知れた仲間たち。髪はすっかり伸びていても「成長はあまり感じなかったです」と笑い「でも、みんな、彼らなりに苦労している感じでした」と表情に少し影を作った。19歳、自分が分かるようで分からない、大人の入り口にいる。
不慣れだらけの1年間を過ごし、新しい居場所を見つけ、進むべき先も見えてきた。10年前は震災直後。遠い未来や、大人になった自分など、想像もできなかっただろう。乗り越えてここまで来た。今なら「佐々木朗希、30歳」への道筋もイメージできる。
「もちろん選手としてもやっぱり、今より肉体的にも技術的にも、精神的にもレベルアップしたいですし、何より、人としてももっと成長したいと思うので。もっと野球がうまくなった時に、人としても成長したなって思える10年後でいたいと思いますね」
未来図を実直に描いた。理想の10年後への1歩目になる2021年。当然、野球で騒がれることも多くなるだろう。それ以前に、1人の青年としてはどんな年でありたいか。
「去年は何となく、少し、ワガママだったように思うので…。今年はしっかり自分と向き合って、自分との約束は守るようにしたいですね」
ワガママ、自分との約束-。内面と誠実に向き合わなければ、出てこない言葉だ。質問をしっかりかみ砕いてから答えることも多いのに、印象的なフレーズが2つもすっと並び出た。
「例えば『今日帰ったら掃除する』とか、他人とするような約束を自分の中でもするじゃないですか。自分とする約束は、自分にしか分からないので、別にやらなくてもいいことが多いと思います。だからけっこう逃げがちというか、サボるというか、やらないことも多いので…」
自分との約束を破ることを、ワガママと表現した。根っからの負けず嫌い。佐々木朗希は、佐々木朗希に負けることも悔しい。「今年は絶対に、自分との約束を守るようにしたいです」と、見えそうで見えない相手に強く誓う。
自分とはいつも、どんな約束を交わしているのか。「チームの練習メニューは毎日ありますけれど、それ以外に個人で何をやるかだとか。今日は何時までに寝るとか、明日は何時に起きるとか。ケータイを見過ぎないとか」。
3日にも、中1日でブルペンに入る。首脳陣は開幕ローテーション候補と期待し、結果も求めていく。十分に自覚し「去年とは気持ちが全然違います」と奮い立つ。ブルペンでの強度やシチュエーションは、日に日に実戦に近づいていくだろう。求められていることも、やるべきことも分かっている。ケータイもほどほどに、明かりを消す。