かつてプロの世界で活躍した野球人にセカンドキャリアを聞く「ザ・インタビュー~元プロ野球選手たちのセカンドステージ」に昨年登場した元中日の片貝義明氏(70)に現在の状況を聞きました。「株式会社 矢場とん」(愛知県名古屋市)で人事部部長を務める傍ら、同社が立ち上げた硬式野球のクラブチーム「矢場とんブースターズ監督」を兼任する同氏は新型コロナウイルスによる影響とどう向き合っているのか…。「ザ・インタビュー特別編」としてお届けします。【取材・構成=安藤宏樹】

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新型コロナウイルスの猛威は年をまたいで続く。名古屋めしを代表する「みそかつ」のチェーン店にも多大な影響が出ている。当然、野球部の活動にも影響は及んだが、チーム活動は今も続いているという。

片貝氏 会社の理解もあり、野球の活動は大きな制限もなく継続させてもらっています。昨年は残念ながら結果を出すことはできませんでした。これもチームに本当の力が備わっていなかったということだと思います。コロナによって練習がなかなかできなかったとはいえ、それはどのチームでも同じです。ここまで順調過ぎたということもよくわかりました。今年は東海地区でのクラブチームとしてトップの座を取り戻し、初の都市対抗にもチャレンジしたいと考えています。

チーム立ち上げから関わる同氏はコロナ禍の中でも監督としてチーム強化を進めていることを明かした。一方で人事部長も兼任するだけにチーム創設時のもうひとつの目標であった幹部候補生が野球部員から育ち始めていることを「成果」として説明した。

片貝氏 昨年秋の人事で野球部1期生から初めて20歳代の店長が誕生しました。店長人事はこれまで30歳過ぎてからが慣例でした。幹部候補生として育成することも野球部創設の目的のひとつでしたので、これも成果ととらえています。

野球部員は現役引退後もそのまま会社に止まり、仕事を続ける比率も高まっているという。昨年のインタビューで同氏はこう話していた。「ご縁があって現在も野球に携わる仕事をさせていただいています。大学まで野球をしていたけど行き場がない。そういった学生の受け皿となり、新たな人生に踏み出すために真剣勝負のできる野球の場を作ってあげたい、という創部理念に共感して立ち上げからブースターズにお世話になっています。私なりにこれからもクラブチームとしての新たなモデル作りにも挑戦したいと思っています」。その新たなモデル作りのひとつが幹部誕生というわけだ。

基本的に野球部員は大学からの新卒採用を続けており、新年度も7人の入社が内定。野球を続けたい学生の受け皿であり、より上のカテゴリーを目指す鍛錬の場でもあり続ける。その一方で、本業の将来を担う幹部候補生の発掘、育成も第2の人生の目標となった片貝氏にとって、要職に抜てきすることができる野球部員の誕生はコロナによる苦が続く中で明るい材料といえる。

片貝氏 もちろん感染対策は徹底しなければなりません。万が一、感染者が出たら大会などへの出場は辞退する方針も決めていますし、何より飲食業を営む会社への影響は多大です。選手たちにはことあるごとに防止策の徹底を伝えています。

自身、現役引退後はスコアラーや動作解析などチームスタッフとして新分野の開拓にも長年取り組んだ。それらの経験も踏まえ、昨年のインタビューでは組織人として生きるためのベースを次のように語っていた。「たとえ野球の世界でトップだったからといっても、一般社会に入ればその瞬間から世間の評価は白紙になります。どの世界に進もうが新たな分野でプロとして結果を出していくしかない。小さなことでも任された仕事をまず完結することです。そこで自信を得て、引き出しを増やしていくことが大事だと思います。自分の道を整理して、小さなことから少しずつでもいいので結果を出すことで対応方法も増えていきます」。野球部強化と社員育成はコロナ禍でも止まることはなさそうだ。

◆片貝義明(かたかい・よしあき)1951年9月27日生まれ、群馬県出身。前橋工、日本石油を経て72年ドラフト2位で中日に指名され、入団。捕手として1軍出場は通算13試合。80年引退後はスコアラー、コーチ、動作解析担当などを歴任。14年に中日退団後は愛知県名古屋市を拠点に各地で展開する、みそかつ専門店「矢場とん」に転身。現在は本部人事部部長とクラブチーム「矢場とんブースターズ」監督を務める。