阪神にまた1人、新星が輝きを放った。西純矢投手(19)が5回無安打無失点の快投でデビュー戦勝利を飾った。威力ある真っすぐでヤクルト打線を圧倒。阪神のドラフト最上位入団の投手がプロ初先発で白星を挙げたのは、球団初の快挙だった。「高校四天王」の一角として甲子園を沸かせた19年ドラフト1位右腕が猛虎史に1ページを記し、2位巨人に再び4・5差。会心の首位固めナイトだ。

   ◇   ◇   ◇

力いっぱい腕を振った。帽子が何度振り落とされても、構わなかった。「自分の持ち味はやっぱりバッターに向かっていけるところ。逃げるとかじゃなくて、しっかりとバッターに向かっていくことができた」。プロ初のマウンドで、西純は最後まで逃げなかった。

「心臓が飛び出るくらい緊張しました」。ピンチはいきなり初回、先頭の山崎から連続四球で無死一、二塁。遊撃手の山本に声を掛けられると、こわばった表情を少し緩めた。迎えた3番山田に5球直球を続けて二飛。4番村上も145キロ直球で押し込んだ。5番オスナはフルカウントから外低めに直球を決めて見逃し三振。主軸3人に真っ向勝負を挑んだ。

投げるたびにカーブやスライダーも決まり出し、気づけば凡打の山が積み重なった。4四球を出しながらも5回まで無安打と堂々のデビュー。「本当に運がよかったなと思っています」。お立ち台ではどこまでも謙虚だった。

「18歳の1年間はいろいろ悩む1年だった」。昨年の夏頃、西純は自分のフォームを見失っていた。長いイニングを投げるうちペース配分が頭をよぎり、直球の球速も下がっていく。8月中旬からは約1カ月、実戦から遠ざかった。続けたのは地道な投げ込み。フォーム固めの毎日だった。その一方で同期の井上は1軍デビューを果たし、オリックス宮城も初登板を経験。「みんな活躍してて、自分だけおいて行かれてる感じはするなって」。焦りはふと口からこぼれたが、決して腐ることはなかった。再び甲子園のマウンドに立つ日だけを見ていた。

大事に握りしめた記念のボールは、母美江さんに送る。この日の朝も「しっかり諦めずに投げて」と背中を押してくれた。高校1年の時にこの世を去った父雅和さんも「見てくれてるんじゃないかなと思ってます」と、力になってくれたと信じている。

矢野監督は「純矢自身、お母さん喜ばせたいとか、天国のお父さんへ、という思いで投げてきたものが、プロとしての第1歩踏み出せた」と思いやった。創志学園時代は「高校四天王」と呼ばれ輝いた聖地。全力投球の19歳に勝利の女神がほほえんだ。【磯綾乃】

◆西純矢(にし・じゅんや)2001年(平13)9月13日生まれ、広島県出身。創志学園2年夏の甲子園、創成館(長崎)との1回戦で16奪三振完封。U18日本代表。19年ドラフト1位で阪神に入団。今季は2軍戦で6試合に登板、2勝1敗、防御率3・44。184センチ、86キロ。右投げ右打ち。今季の推定年俸は1200万円。

 

○…矢野監督は西純の次回登板については明言はしなかった。来週以降の登板は考えてからになるかと問われ、「そうやね」と話した。右肩張りの影響から今月10日に出場選手登録を抹消されたガンケルがすでに1軍練習に合流。西勇、青柳、秋山、伊藤将、アルカンタラと先発要員はそろっている。

▽創志学園・長沢宏行監督 試合は見られなかったのですが、皆さんからの連絡で聞いたらヒヤヒヤだったと。お父さんの運が付いていたんじゃないですかね。不思議の勝ちですもんね。強気に見える顔立ちは、お父さんそっくり。損をする部分もあるけど、本当に謙虚な子なんです。1つ1つを大事に、お父さんの仏壇の前にボールを並べていってほしいですね。