虎は9月に息を吹き返す。阪神が大山悠輔内野手(26)の執念のタイムリーで連敗を「4」で止めた。6回2死一、三塁でバットを真っ二つに折りながら、右前に運んだ。8月終了時点で得点圏打率は規定打席到達者でリーグ最下位。悩める主砲が意地を見せた。9月以降に強さを発揮する矢野阪神は首位巨人を逃がさない。

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根元からバットをへし折られても、数10センチ残った相棒を最後まで振り抜いた。大山は目を見開き、右翼線に押し込んだ飛球の行方を追った。見た目など気にしてはいられなかった。

「本当は初回のチャンスで得点を取って(先発の伊藤)将司を楽に投げさせたかったんですけど、本当にふがいない打撃をしてしまった。そこをチーム、将司がなんとかカバーしてくれた。死ぬ気で行きました」

2戦ぶりのスタメン復帰。1回2死満塁では投ゴロ、4回1死一塁では二ゴロ併殺打に倒れていた。同点で迎えた6回2死一、三塁、リーグワーストの得点圏打率は1割9分4厘まで落ち込んでいた。右腕田島に3ボール。それでも「見る気はなかった」。狙い球の直球に両腕を伸ばした。

「弱気にならないことだけ。前向きに、前向きに」。打席に入る直前、北川打撃コーチから背中を押されていた。「振れ振れ、と。あそこで振らないようでは僕たちの野球ではない」。矢野監督の願いも通じた。外角145キロ直球にバットの先を届かせ、右前に決勝打。得点圏に走者を置いた場面では10打席ぶりの「Hランプ」をともし、今季初の5連敗を阻止した。

先発落ちした前夜の中日戦、率先して「バットボーイ」を務める背番号3がいた。4回、マルテがファウルでバットを折ると、主将自ら新品を片手に打席へ駆けた。V奪回へ、ナインを先導する立場にいる。ベンチスタートで気落ちするほど覚悟は弱くない。「とにかく勝ちたい。勝てれば何でもいい」-。勝負の季節、自身の浮沈だけに一喜一憂してはいられない。

8月は月間打率1割9分6厘、4本塁打、6打点。甲子園に戻った前日8月31日から、全体練習前の室内で打ち込むルーティンに変化をつけた。2日連続の屋外早出特打を泥臭く勝利につなげて感謝、感謝だ。

「早出はコーチも裏方さんも手伝ってくれているからできること。その方々の思いを無駄にしないように試合に臨んでいる。今日いいところで1本出て、少し恩返しができたかなと思う。明日からも続けていけるように頑張ります」

首位陥落の責任を人一倍背負い、首位再浮上へ気持ちを入れ直す。いよいよ9月に突入。真夏の悔しさは秋に晴らす。【佐井陽介】

▽阪神北川打撃コーチ(大山決勝打の直前に耳打ち)「(内容は)内緒(笑い)。前の打席のダブルプレーは、打ち方自体は悪くないと思った。だから『紙一重でゲッツーになっただけだから同じ考えでいけ』というだけですね」

<矢野監督就任後の阪神の9月以降>

◆19年 8月終了時点で3位広島に3差で、CS進出は困難な状況に。ところが9月21日広島戦に勝って勢いをつけると、シーズン最終戦の同30日中日戦まで6連勝フィニッシュ。大逆転でCSへ駒を進めた。

◆20年 新型コロナウイルス感染拡大で開幕が大幅に遅れ、9月以降に60試合を戦った。10月24日巨人戦から1分けを挟んで6連勝を飾り、17年以来4年ぶりの2位を確保。西勇が9月以降7勝を挙げ、チームを引っ張った。