162キロの剛球が内角をえぐった。守護神スアレスの魂の1球だった。同点の9回2死満塁、カウント2-2から中田の懐に投げ込み、ドン詰まりの遊直。変則回転のライナーを遊撃手中野が体勢を崩しながらグラブに収めた。絶体絶命のピンチを脱し、ナインは笑顔でグータッチした。矢野監督は「みんな、必死の姿で最後までやりきったことが引き分けにつながった。勝ちたかったけど、よくやってくれた」と褒めた。38年ぶりという2試合連続引き分け。ナインの勝利、優勝に懸ける執念が東京ドームの9回裏に「0」を刻んだ。

9回にようやく同点に追いつき、その裏のマウンドにスアレスが上がった。前日23日の中日戦では2失点し今季49試合目で初めてセーブ機会で失敗していた。2日続けて失点しない。それは守るナインも同じだった。1死から坂本の右中間への飛球に左翼寄りに守っていた中堅手近本が必死に走り込んだが、グラブのわずか横をスルリと抜けて二塁打となった。岡本和の中前打で一、三塁。さらに投球間の進塁で二、三塁。首脳陣は亀井を申告敬遠し、満塁策を選んだ。

そのピンチで、前進守備の三遊間へ丸の強いゴロが飛んだ。身長171センチの中野が横っ跳びし好捕すると、本塁へワンバウンド送球で三塁走者をアウトにした。「1点与えたら終わり。自分自身も割り切って守ることができた。(坂本)誠志郎さんがいいカバーをしてくれた」とやや一塁側へそれた送球を、坂本が目いっぱい足を伸ばしてキャッチ。間一髪のタイミングで巨人原監督からリクエストを求められたが、ビジョンに映るリプレー映像でも、しっかり本塁から足を離していなかった。

練習前、矢野監督はナインを集めて訴えていた。「今やれることを。そういうのがつながったものがオレたちの野球だから」。激しい優勝争いの中、もう1度自分たちを見直そう-。9回の攻守には、阪神のやれることが詰め込まれていた。

首位ヤクルトが勝ち、ゲーム差は0・5に広がった。25日に阪神が勝って、ヤクルトが負けても勝率差で首位奪取とはいかない。それでも最大3点差を追いつき、サヨナラ負けのピンチも乗り切ったドロー。優勝へ大きな1試合となった。【石橋隆雄】

▼阪神の2試合連続引き分けは、83年7月12、13日巨人戦以来、38年ぶり。12日は巨人先発江川が11イニング1/3の力投から角のリレーに対し、阪神は野村から4投手の継投で応戦も3-3。翌日13日は阪神が真弓、北村、笠間、巨人はスミス2、原、中畑と7本塁打が飛び交ったが、5-5に終わった。球団最長は3試合連続で、64年8月21日国鉄戦~同23日大洋戦。なお同年は2度目のセ・リーグ優勝を果たしている。

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