一瞬、時が止まったかのように、東京ドーム全体が静寂に包まれた。阪神糸原健斗内野手(28)が高々と打ち上げた瞬間、観客の大半が息をのんだ。

巨人菅野は驚きを隠せないまま、思わずマウンド上で体をのけぞらせた。「たまたまホームランになっただけなので…」。謙虚すぎる言葉では表現しきれないほど、インパクトのある1発だった。

高橋VS菅野。息詰まる投手戦にひと振りで変化をもたらした。0-0の7回表1死、2ボール2ストライク。それまでチーム2安打に抑え込まれていた菅野の内角150キロに腕を畳み、右翼フェンスを楽々オーバーさせた。「こんな大事な試合で打てて…。遥人も頑張っていたし、本当に最高の結果になったかな」。先発高橋のプロ初完封を豪快にアシストし、控えめなコメントの数々からも喜びがにじみ出た。

「おまえ、今年ホームラン何本や? 」

試合前、談笑していた矢野監督から何げなく聞かれた。この時点で答えは「1」。もちろんアーチ指令が出されたわけではなかっただろうが、シーズンの行方を左右する重要な一戦で、あらためて持ち前のパンチ力を証明してみせた。4月1日広島戦以来、実に177日ぶりの2号は決勝ソロ。指揮官も「力と言うより、完全に技で打ったバッティング。いいところで打ってくれた」と納得顔だ。

9月はすでに3、5、6番と3つの打順を経験。前日24日巨人戦から5番に戻っても、柔軟に対応する適応力が頼もしい。これで今月の月間打率は3割6厘。「どこに入れても仕事をしてくれるバッター」と矢野監督の信頼は揺るぎない。粘れる。つなげる。かえせる。ツボにハマれば、アーチも架けられる。場面に応じて何役も使い分けながら、ナインを頂点へ先導する。【佐井陽介】