クビ覚悟から、歓喜の音色を奏でた。楽天滝中瞭太投手(26)が、自身初の2桁勝利となる10勝目を挙げた。23日、ソフトバンク24回戦(楽天生命パーク)に先発し6回1失点と好投。2年目までの2桁勝利は07年田中将、13、14年の則本昂に次ぎ球団3人目となった。開幕ローテ入りも今季初登板で悪夢の10失点。折れかけた心を、ピアノの音色に救われた。この日の勝利で、チームは2年ぶりのクライマックスシリーズ(CS)進出を決めた。

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あの時は、想像もできなかった。滝中が絶望の淵から、10勝目のウイニングボールまでたどり着いた。気温10度をわずかに超えるほどの寒さの中、お立ち台でファンの視線を一身に集めた。「野手、リリーフの方に本当に何度も何度も助けてもらったので、本当に感謝しかないです。最初が最初なだけにかなり不安でしたけど、何とか最後まで戦い抜くことができてよかったです」。

約半年前、悪夢を見た。4月1日、敵地千葉でのロッテ戦。何度右腕を振っても打たれまくった。1回2/3、7安打4四死球10失点。豪華先発陣に“第6の男”として開幕ローテに食い込んだが、希望はもろくも砕かれた。「あぁ、もうクビになるんだな」。屈辱を通り越した味わったことのない感覚に、マウンド上で半ば自暴自棄になった。

仙台の自宅に戻ると、脳内を自己嫌悪で埋め尽くされた。好きな酒を浴びてもダメ。気づくと、部屋にあるピアノの前に座っていた。趣味程度の腕前で人気ゲーム「ファイナルファンタジー」のメインテーマなどを思うままに弾いた。気づけば2時間近く。何でもいいから、野球と距離を置きたかった。

ただ、立ち止まってはいられない。翌日、石井GM兼監督からメンタル面の助言を受けた。色気を出さず、目の前の打者に集中することを心がけた。安定感が増し、前後半で5勝ずつを挙げた。対ロッテは3戦3敗、防御率18・00だが、その他は10勝2敗、同1・81。日程のずれによる谷間を埋め続け“第6の男”から、今や欠かせない存在だ。

この日も危なげなく白星を積み上げ、チーム2年ぶりのCS進出を決めた。「経験したことのない緊張感、空気感だと思う。よそゆきのピッチングをしないように、自分のピッチングを心がけていきたいです」。謙虚に、等身大で。19年ドラフト6位からのし上がった右腕が、下克上へのキーマンとなる。【桑原幹久】

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