「ドカベン」「野球狂の詩」「あぶさん」などの野球漫画で知られる、漫画家の水島新司さんが10日、肺炎のため都内の病院で亡くなった。82歳だった。谷繁元信氏(51=日刊スポーツ評論家)が故人を悼んだ。

「ドカベン」はそれまであまりスポットライトを浴びることのなかった「捕手」というポジションに光を当てた。

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「ドカベン」は大好きで読んでいたけど、実は自分のキャッチャー像として山田太郎はあまり好きじゃなかった。すごく打つけど、足が遅くて、ずんぐりむっくり。だから昔は動きが遅くて、体がごつい、プラス肩がいい選手がイコール捕手になった。高校1年の夏から本格的に捕手になったが、動けるタイプが理想で、いわば反面教師にしていた。そういう思いが、自分を成長させてくれた部分はある。

捕手という固定観念は生まれたかもしれないが、岩鬼、殿馬と規格外の選手が球界に与えた影響はあると思う。悪球打ち、曲芸打ちは良しとされない打ち方。でもこぢんまりとした考えから、常識から多少外れてもやる選手はいるのでは、という発想を与えてくれた。

あぶさんの37インチのバットも驚異的だ。普通は33・5~34インチ。まるで逆のバッターボックスの真ん中まで打てそう(笑い)。でもバットの出を良くしてしなりを使わないと振れないから練習にもなる。野球が本当に好きでなければ思いつかないし、野球を違う視点からも面白くしてくれた。

「ドカベン」プロ野球編の中で、土門とバッテリーを組んだこともある。昔から読んでいた漫画に自分が登場したのは本当にうれしかった。水島先生は球場にもよく足を運んでいたので「ありがとうございました」と伝えると「よく頑張っているな」と言葉をかけてくださった。60歳ごろまでプレーして3冠王を取ったり、葉っぱをくわえて学帽をかぶったり、すごい身体能力で秘打を放つような選手が今後、出てきたら、水島先生も喜ぶでしょう。ご冥福をお祈りいたします。(日刊スポーツ評論家)