虎党がつかの間の夢を見た。阪神大山悠輔内野手(27)が9回裏に一時同点となる7号2ランを放った。2点ビハインドの9回裏2死一塁。カウント0-2から巨人デラロサの変化球を左翼席へ運んだ。敗戦まであと1球から粘りを見せ、2戦連続完封負けを阻止。チームは敗れたが、悩める男の1発が明日への希望だ。

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無表情のまま終われるはずがなかった。

大山はダイヤモンドを回り終えると、途端に「鉄仮面」を外した。矢野監督から虎メダルをかけられ破顔。「ヨッシャー!」と連呼しながら、仲間とハイタッチを繰り返した。

2点を追う9回裏2死一塁、2ストライク。目の前に2試合連続、早くも今季12度目となる完封負けが迫っていた。デラロサの3球目。外角要求が真ん中に入ったスライダーに、集中力を研ぎ澄ませた。

「投手陣が粘ってつないでくれていた。なんとしても打ちたいと思っていました」

寸分狂わぬフルスイング。飛距離128メートルの特大7号だ。起死回生の2ランが左翼席に消えた後の数分間、甲子園からどよめきが収まることはなかった。

勝てばヒーロー。負ければ戦犯。人気球団で主力を務める厳しさは人一倍知っている。

「キャンプで早出特守をする時にしても、自分の中でテーマを掲げて練習していたとしても、ちょっとでもポロッとすれば『何をやっているんや』となる。難しい部分はありますよ」

苦笑いで本音をこぼしたこともある。

「でも去年、良いことも悪いことも経験した。まだ5年ですけど、プロで5年間やった経験はあるので」

背中の痛みやスランプに悩まされた昨季の経験が、背番号3の心をたくましくしている。

今季は開幕直後の大不振が響き、いまだ最下位に低迷。自身も打率2割台前半と苦しんでいる。4月下旬に左足を負傷。痛みもまだ残っている。それでも前向きな姿勢を懸命に貫く。

5時間3分の激闘。延長12回を戦った末、敗れた。とはいえ、下を向いている暇はない。シーズンはまだ98試合も残っている。

矢野監督は試合後、大山の状態を「上がってきている」と表現した。主砲の復調気配は、今後に向けた希望の光でもある。

チームのV字回復に大山のバットが欠かせないのは、誰の目にも明らか。ブレることなく、全力で虎の浮沈を背負い抜く。【佐井陽介】

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