今週末から、いよいよ関東でも夏の甲子園予選が本格的にスタートする。

1球、一振り、1プレーが運命を分ける一発勝負。DeNA森敬斗内野手(20)もまた、桐蔭学園(神奈川)時代に一振りで野球人生が変わった1人だった。プロ3年目の今季は故障で出遅れたが、6月23日の巨人戦でプロ初本塁打をマーク。飛躍へと突き進む今に迫りながら、あの日の「一振り」を回想し、球児にメッセージを送った。【取材・構成=久保賢吾】

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3年目、158打席目。森は6月23日巨人戦の6回に、戸田の1ボールからの144キロ直球を右中間席に運び、プロ初アーチを刻んだ。

森 率直にうれしかったです。ランナー二塁で正直、引っ張ってつなごうとしか考えていなかったので、それがたまたま芯に当たったので良かったです。

振り返れば、野球人生の“転機”となったのは、ホームランだった。桐蔭学園2年秋の関東大会。1回戦の常総学院戦の9回2死満塁で、逆転のサヨナラ満塁弾を放った。

森 あの1球を打ったか、打ってなかったかで未来も変わってきているだろうし、今ここにいるかも分からないです。1球に対してどれだけ思いを持って、そこをイメージしながら練習しているか、ってところがすごく大事。僕の場合、あの1球で人生が変わっているのは間違いないです。

この1発で勢いに乗ったチームは関東大会で優勝。センバツ出場を決めた。しかし、春夏連続出場を目指した夏は県大会4回戦で敗れ、涙をのんだ。そんな経験を経て、プロの舞台に立つ男が、甲子園を目指す球児にエールを送った。

森 最後の夏に悔いを残さないっていうのは、全国で1チームしかできないことだと思います。だから、今までやってきたことを全て出すこと。1球に対する思いを持って、出し惜しみしてほしくないな、って思います。

3年秋にはロッテ佐々木朗、阪神西純、ヤクルト奥川、オリックス宮城らとともに高校日本代表に選出され、U18ワールドカップに出場した。

森 ああいうレベルの高いところでプレーできたことは、今の自分の中でとても大きなもの。すごく幸せなことだったなと感じています。

佐々木朗とは今年6月11日に交流戦で対戦し、3打数無安打。西純とは同19日に甲子園で対戦し、2打数1安打をマークした。

森 もちろん、どちらも「絶対に打ってやる」という気持ちはありました。ただ、朗希の時はちょっと力んじゃって打てなかった。今思えば、意識せずに普通にいけばよかったなと。純矢の時は、自分のやることをやろうと思って打席に立てたのでよかったです。

周囲からは、石井琢朗野手総合コーチの現役時代に重ね合わせ、次世代の遊撃のレギュラーとして、大きな期待を受ける。

森 「やってやるぞ」という気持ちはあります。期待に応えるためには、ちゃんと結果を残さないといけないです。与えられるレギュラーじゃなくて、自分からつかみ取りにいって、そこから長く自分のものにできるようにしたいです。

森敬斗の歩む道は、あの一振りで変わった。これからも1球に思いを込め、全力で突き進む。

◆18年の秋季関東大会1回戦の常総学院-桐蔭学園戦VTR 桐蔭学園が6回までに2点のリードを奪ったが、7回に5点を奪われ、逆転を許した。3点を追いかける9回に1点を返し、なおも2死満塁から、森の逆転サヨナラ満塁本塁打で劇的な勝利を飾った。

◆桐蔭学園時代の森 1年夏からベンチ入りし、主将を務めた2年秋には県大会で準優勝。関東大会では3本塁打を放ち、チームを優勝に導いた。3年春のセンバツでは1回戦で啓新(福井)と対戦し3安打を放ったが、チームは敗退。夏の県大会は4回戦で向上に敗れた。