全セの先発マウンドに上がった青柳晃洋投手(28)が、その瞬間、思わず両手を上げた。

2回先頭。全パの西武山川に左中間へソロアーチを浴びた。打たれた瞬間、スタンドインを確信させられるほどの大きな放物線。3度目の球宴で初失点を喫し、少しだけ白い歯を見せ、拍手を送った。

「完璧でしたね。あんなに気持ちいいホームランは久々に打たれました。ど真ん中のツーシームです。あそこに投げたら打たれるなと思ったんですけど、四球を出すよりは全然いいかなと思いました。あんなに綺麗に打たれたら称賛しかないです」。心からも敬意を表した。

ガチンコだった。速球で押した。初回先頭。ソフトバンク柳田に6球全て140キロ以上。最後は145キロで空振り三振に仕留めた。「持ち味は打たせて取るというところ。三振取れたらうれしいですけど…」。試合前の言葉とは裏腹に、Kスタートで初の球宴先発マウンドが幕を開けた。

さらに初回1死一塁では、対戦したい相手に挙げていたオリックス吉田正と対戦。同学年のパワーヒッターを一ゴロで併殺に仕留めた。中日木下のミットを目がけて、投げ込んだ。悔しさと充実感を持って2回1失点で終えた。

お祭り舞台でもいつもと変わらない。他球団のメンバーとキャッチボールする選手が多い中、阪神片山ブルペン捕手を相手に肩をつくった。黙々と外野でダッシュを重ね、特別なマウンドに向かった。「年に(リーグで)2人しかできないところなので楽しんでやりたい」。ヤクルト高橋には「ブルペンを見させてください」と頼まれた。ライバル球団の若手が見守る中、淡々と準備した。初のファン投票での出場。選んでくれた人たちへ、胸を張れるピッチングにしたかった。

「上投げが苦手だった」野球少年は、小学6年から変則フォームに挑戦。アンダースローとサイドスローの中間あたりから投げ込む唯一無二の個性が、輝きを放つ。川崎工科高時代は甲子園出場なし。決して野球エリートではなかった男には、伝えたいことがある。

「送球難とか守備がへただったりとか、課題がある中で成長していくというのは年々ある。そういう姿で見ているファンを勇気づけられたらうれしい」

青柳の33球は、きっと多くの人の心に響いたはずだ。【中野椋】

【球宴】全パ大関友久-全セ青柳晃洋/ライブ速報