日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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新型コロナの日本上陸から2年半が経過したが、いまだ先行き不透明で、疑問、異論が湧き出るばかりだ。プロ・アマ野球のスタンドの“密”は大丈夫? 第7波のピークは? 重症化率は減少も、感染者急増はどうして? 

そんな“なぜ”に答えるように定期的に開催されているのが、名だたる感染症専門家メンバーが顔をそろえる「新型コロナウイルス感染症市民公開講座」だ。第3回目の今回もWEB開催でオンデマンド配信されている。

講師役は東京大学医科学研究所附属病院病院長・四柳宏、国際医療福祉大学医学部教授・加藤康幸、大阪大学医学部教授・忽那賢志の3人。司会を務めたのは大阪医療センター副院長の三田英治、フリーアナウンサーの宇垣美里だった。

今回のテーマ『コロナとの共生』で興味深いのは忽那の「感染症の医療情報発信の仕方と受け止め方」と題した講義だ。大学時代に“くつ王”のペンネームで「ブルータス、おまえモカ」というブログを運営したことで知られている。

ブログのファンだった漫画家・羽海野チカが新型コロナの啓発ポスターを作成し、感染症防止イラストを背負った忽那がテレビ出演しているのは有名なエピソードだ。“くつ王”は熱湯が感染予防に効果的などといった不確実情報の拡散に警鐘を鳴らす。

講義では日刊スポーツの『コロナ感染の〇〇、アビガン処方され回復傾向に』という見出しも紹介された。忽那からは「あたかもアビガンが効いて良くなった印象がありますが、それが効くかどうかは2年半たった今も分かっていないのです」と説明を受けた。

「試験管内でアビガンが新型コロナウイルスを抑制する効果はあっても、直接人との効果と関連しているかどうかはわからない。効く可能性と、本当に効くかどうかは別なので、それは根拠がどれぐらいあるかを含めて報道していただくのが重要かと思うのです」

確かに“慣れ”とは怖いもので、連日の感染者数の増減発表など、正直、ちょっとしたコロナ情報にも驚かなくなっている。忽那から「科学的妥当性も含めて、専門家からの発信を読み解く力がメディアに求められます」と突っ込まれて反論ができなかった。

忽那にはプロ野球のジェット風船、鳴り物、飛び跳ねなど、現時点で禁止されている応援スタイルについても聞いてみた。

「どうなんですかね。ゼロリスクを求めるような段階ではなくなっていると思うんです。感染者が1人でも出ないような対策をとるよりは、なるべく感染リスクを下げる対策をしていきましょうということだと思います」

講義後の宇垣は「わたしは基本的に科学的な答えに対する信用度の高いタイプだと思います」とし、今後のプロ野球などエンターテイメントの在り方について語った。

「元通りの社会に戻るにはまだ時間がかかるのだろうと思います。その上で楽しむためにどうすべきか、プロ野球ならヤジを飛ばさないにあたるのか、声出しはできないけど一緒に観に行くことはできる、どうやって楽しむか、楽しむには何が必要かを、主催者側も、球場に行きたい人も気をつけることで越えられるハードルはあると思います」

コロナ明けにしたいことは「国内は気をつければ旅先に赴くことは可能になってきていると思います。でも海外には2年半以上行けていません。海外に友達がいるので、落ち着いたら会いに行きたいと、ずっと思っているんです」と願っている様子だった。

オミクロン株対応のワクチン、キット、飲み薬の普及を急ぐなど、さまざまなテーマが浮き彫りになる一方、情報の氾濫とともに虚偽、デマ拡散が問題視される。情報源をつかみ、できるだけ正確に伝えることの大切さを肝に銘じた次第だ。(敬称略)

◆視聴サイト https://youtu.be/AZ82ecj_pZ8