<SMBC日本シリーズ2022:ヤクルト0-3オリックス>◇第6戦◇29日◇神宮

第5戦で主砲・吉田正尚にサヨナラ本塁打が出たオリックスの流れは移動日を挟んでも途絶えていなかった。序盤はどちらに転んでもおかしくない展開。オリックス投手陣が力を見せる中、6回に1点を先制すると9回はビハインドで登板したヤクルトの守護神マクガフが我慢できない。オリックスが26年ぶり、日本一へ王手をかけた。

あの96年。ミスター長嶋茂雄率いる巨人を下し、日本一に輝いたオリックス・ブルーウェーブは初戦から3連勝した。同年10月22日、グリーンスタジアム神戸で行われた第3戦で王手をかけたのだ。そのときオリックス指揮官・仰木彬はこんな話をした。

「東京の2試合はイチロー、ニールが打って勝ったわけだしな。きょうは小川、福良ら脇役が活躍してくれた。全員でやるのがウチの野球ですから。みんな我々(首脳陣)の予想を超える働きをしよるわい…」

同日は“主役”イチローにとって23歳の誕生日だった。だが主役は7回の4打席目に三塁内野安打を放ったものの「5-2」で勝った試合に直接の貢献はできなかった。その代わりに頑張ったのは仰木の言ったとおり福良淳一、小川博文、そして大島公一という“脇役”。その面々の働きで2回に一挙4得点し、巨人ガルベスをKO。試合を優位に進めたのである。

イチロー、さらに4番ニールが打たなくても勝てる。もちろん先発・野田浩司から抑えの鈴木平までつないだ5投手の働きも大きかった。そんな顔ぶれの仕事を見て仰木は「全員でやるのがウチの野球」と胸を張ったのだ。それも「仰木マジック」の側面だった。

現在の指揮官・中嶋聡も当時の日本一メンバーだ。仰木同様に手応えを感じていることと思う。取材には多くを語らないタイプなので仰木のようなリップサービスは出ない。この日の勝利監督インタビューでも鉄壁の救援陣について「自慢だとは思ってませんけど。よく投げてくれました」と謙遜しつつ控えめに褒めるだけだった。

それでも3回にフェンスに当たりながら好捕した中堅・中川圭太、6回の難しい二ゴロをさばいた安達了一らの好守に「全員野球」の結実を感じているのは間違いない。もちろん「絶対、大丈夫」と切り替えるヤクルトも簡単には屈さないはず。簡単にはいかないけれどオリックスは全員で歓喜の瞬間へ向かう。(敬称略)