元阪神、ロッテの鳥谷敬氏(41=日刊スポーツ評論家)が「守備」をテーマに語り尽くした。現役時代は三井ゴールデン・グラブ賞を5度獲得。当時のライバルや裏話、気になる若手、日本人内野手の現在地と未来など、守りにまつわる本音の数々を明かした。【取材=佐井陽介】

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<海外の感覚必要>

鳥谷氏は21年秋、40歳でユニホームを脱いだ。18年間の現役生活を全うする中で、守備に対する考え方の移り変わりも敏感に感じ取ってきたという。

鳥谷氏 自分の幼少期は「すべて正面で捕りなさい」という教え。正面で捕球して思い切って投げるプレーがベストだった。それが今は「どうすればアウトにできるのか」という発想。アウトにするために必要な形は正面捕球なのか、それとも逆シングルで勝負するべきなのか。逆算というか、アウトにするために必要なプレーがどんどん求められています。投球や打撃と同じように、守備もすべてが数値化され始めている。アウトにするためには必要な形は何なのか、以前と比べて、考え方のスタート地点とゴール地点が逆になってきている気がします。

13年WBCでは侍ジャパンの一員としてベスト4進出にも貢献。各国の名手たちが繰り出すワールドクラスの技を目の当たりにした上で、日本人内野手の守備力はまだまだ向上していけると信じて疑わない。

鳥谷氏 根本的な能力…守備範囲や送球の強さでは、他国の選手になかなか勝てないのは事実です。一方で、日本人選手は捕球から送球までの流れがより早くスムーズで、ボールの一塁到達タイムを縮められる素晴らしさも持っています。選手個々のスピードも上がっているし、ハンドリングや足の運び、どうすればアウトにできるのかという発想も海外から学んでいる。そうやって得た知識を幼少期から選手が実践していけば、他国の内野手との差は少しずつ縮まっていくのではないでしょうか。

日本人スタープレーヤーたちが過去に苦しんだ背景もあり、大リーグでは現状、日本人内野手に対する評価が芳しくない。負の流れを一変させられる名手の登場を、多くの野球人たちが待ちわびている。

鳥谷氏 日本ハムが今秋のドラフトで加藤豪将選手を指名しましたが、大リーグも経験したような選手が海外の守備感覚を持って日本に来ることは、非常にポジティブな変化をもたらすと考えています。日本人がもともと大事にしている部分に、他国の考え方、技術がミックスされていくわけですから。たとえばバスケットボールにしても、NBAを経験した選手が日本に戻ってきた時、他の選手は本場の攻撃、守備を学ぶことができる。野球にしても、他国で得た感覚を日本に持ち帰って広める選手がどんどん増えれば、日本人プレーヤーのレベルはさらに上げられるはずです。

◆三井ゴールデン・グラブ賞(提供=三井広報委員会) プロの技術でファンを魅了し、シーズンを通して卓越した守備力によりチームに貢献した選手を表彰する。選出方法は各メディアのプロ野球担当として5年以上の経験を持つ記者の投票。セ・リーグ、パ・リーグの各ポジションから9人を選出する。同賞は、1972年に制定され、1986年に現在の名称「三井ゴールデン・グラブ賞」となった。

◆鳥谷敬(とりたに・たかし)1981年(昭56)6月26日生まれ、東京都出身。聖望学園3年夏に甲子園出場。早大から03年ドラフト自由枠で阪神入団。04年9月からの1939試合連続出場はプロ野球歴代2位。667試合連続フルイニング出場は遊撃手記録。19年オフに阪神を退団し、ロッテで2年間プレー。21年限りで現役引退。13年WBC日本代表。ベストナイン6度、三井ゴールデン・グラブ賞5度(遊撃4度、三塁1度)。通算成績は2243試合、2099安打、138本塁打、830打点、打率2割7分8厘。