楽天涌井秀章投手(36)と中日阿部寿樹内野手(32)との1対1の交換トレードが成立したことが15日、両球団から発表された。

通算154勝を挙げ、史上初めて3球団で最多勝に輝いた右腕と、過去4年で3度規定打席に到達し、中日打線を支え続けたクラッチヒッター。主力を放出してまで強化したい思惑が両サイドにあった。それぞれの側面から担当記者が“電撃”トレードの舞台裏をひもとく。

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楽天は、中日からの要請に応えた形となった。石井一久GM兼監督(49)は「まず中日さんからお話いただいて。涌井とトレードしてもらえないかという話で、その中で阿部選手が出てきた」と明かす。

チームは慢性的に右の内野手が不足。今季1軍で戦い続けたのは浅村だけだった。石井GM体制となってから、19年に和田、21年に横尾、今年は伊藤をトレードで獲得。生え抜きでは内田と岩見が今秋に戦力外通告。右の主軸候補が定着しきれなかった。その中で阿部のバットコンタクトの強さに注目。石井GMは「年間で二塁打を31本打っている。1コマでは終わらない、2コマ進められるという能力が、キャリアの中で数多くある。二塁打数というところはすごく魅力的な打者」とセ・リーグ4位タイの本数にうなずいた。

ユーティリティーさも評価する。阿部は今季、遊撃以外の内野と左翼を守った。来季は浅村、島内、外国人選手などで指名打者を回していく方針。「いろいろなポジションを守れる。彼らがDHに入ったときにいろんなポジションを組めるようにしていきたい。外野も積極的には考えています」と起用方針を語った。

涌井が抜ける穴は大きいが、新戦力の台頭に期待した。今秋のドラフトでは支配下指名6人中5人が大学生、社会人の投手。高田孝や松井友らも、今季2軍戦では好成績。鈴木翔の先発転向も視野にある。「ワクが抜けたところを、競争意識を持たせたい。彼がいなくなった枠を誰が投げるのかし烈な競争。若い人を求めています」と期待した。

投手陣の整備のめどが立ち、野手陣はまだまだ手薄。痛みを伴ったが、それを補う選手を補強した。10年ぶりの優勝へ向けて、石井GM兼監督の覚悟が垣間見えた。【楽天担当=湯本勝大】

◆4球団で2桁勝利なるか 涌井は西武時代の06~10年、ロッテ時代の15、16年、楽天で20年の計8度、2桁勝利を記録。20年には史上初となる3球団で最多勝利をマークした。これまで4球団で2桁勝利は70、80年代に通算121勝を挙げた野村収が大洋、ロッテ、日本ハム、阪神で記録しているだけ。涌井が達成すれば史上2人目となる。

◆楽天の岩手県出身選手 阿部は岩手県出身。東北を本拠地とする楽天で、岩手県出身の現役選手は銀次だけ。銀次の他には花巻東から16年育成ドラフト1位で入団した千葉耕太投手が、17~19年に育成選手として在籍していた。

◆規定打席到達打者のトレード 今季の阿部は133試合に出場し、2年ぶり3度目の規定打席に到達した(打率はセ・リーグ16位)。規定打席に到達した打者がオフにトレードされたのは、12年オフの糸井嘉男外野手(日本ハム)以来。12年パ・リーグ打率3位の糸井は13年1月、八木智哉投手とともにオリックスへ移籍し、交換要員は木佐貫洋投手、大引啓次内野手、赤田将吾外野手の2対3トレードだった。