天国できっと驚いている。球界の功労者をたたえる「2023年野球殿堂入り」が発表され、作曲家の古関裕而氏(享年80)が特別表彰で殿堂入りした。

20年から候補だったが、昨年は当選必要数に1票届かなかった。通知式に出席した長男の正裕氏(76)は「父は運動が全くダメでして。それが野球の殿堂入り。もう死んでますけど、死ぬほどびっくりしてると思います」と代弁した。

夏の甲子園でおなじみの「栄冠は君に輝く」をはじめ、多くの応援歌を手掛けた。阪神の「六甲おろし」と巨人の「闘魂こめて」、早大「紺碧の空」と慶大「我ぞ覇者」など、時にはライバル双方の曲を作った。「いいんですか?」と聞かれることもあったが、依頼に誠実に応えた結果だ。

戦前は軍歌も書いた。「兵隊さん1人1人を応援する気持ちが表れていた。スポーツなら、青春を謳歌(おうか)する若者を応援したいという気持ちが。父は『作曲という仕事は作るのではなく生む』とよく言っていました」。時間の許す限り現地に赴き、その歌を歌う人のことを考えた。すると自然と旋律が思い浮かぶと、父は言っていた。

父の作品は後から知ることがほとんどだった。家では楽器も使わない。鼻歌を口ずさんで五線譜を埋めていた。「家族は今どんな曲を作っているのかも分からない。『六甲おろし』も、阪神が85年に日本一になった時に全国区になって、初めて知りました」。

没後、作品集の企画や編集に携わって、当時自宅では流れなかった曲をたくさん聞いた。カラオケで歌うこともある。「うれしい時やチームを応援する時に浮かんでくる、心に残るメロディーなんだと思います。愛され続けてうれしいことです」。アマで、プロで。古関氏が編んだ曲は今後も歌う人、歌われる人を鼓舞していく。【鎌田良美】

◆古関裕而(こせき・ゆうじ=本名・古関勇治)1909年(明42)福島市生まれ。30年、日本コロムビアに作曲家として入社。戦前は「露営の歌」「暁に祈る」など。47年以降は作詞家・菊田一夫氏とのコンビで放送作品に注力。NHKラジオ・ドラマ「鐘の鳴る丘」「さくらんぼ大将」「君の名は」などの主題歌を発表。64年東京五輪の選手入場行進曲「オリンピック・マーチ」も作曲した。作曲作品総数は約5000。69年に紫綬褒章受章。89年8月18日、脳梗塞のため死去。20年のNHK連続テレビ小説「エール」の主人公のモデルになった。

◆阪神タイガースの歌(通称「六甲おろし」) 佐藤惣之助作詞、古関裕而作曲。全3番。元は「大阪タイガースの歌」で、61年に球団名が阪神に変わり、歌詞が一部改訂され現題名に。「大阪」と韻を踏む「オウオウ……」のフレーズはそのまま残った。阪神が日本一となった85年にはレコードが大ヒットし、40万枚売れたといわれる。

▽阪神タイガース球団(古関氏の殿堂入りに)  このたび名誉ある受章、誠におめでとうございます。古関裕而さまによって生み出していただいた『六甲おろし』は、我々、阪神タイガースが歩んだ歴史と共に、多くのファンの方々に愛され、歌い継がれてまいりました。古関裕而さまの功績に敬意を表し、阪神タイガースはこれからもこの『六甲おろし』と共に歩んでまいります。