阪神が同点の9回、大山悠輔内野手(28)の劇的サヨナラ打で2勝2敗のタイに戻した。負ければ王手を掛けられた日本シリース第4戦。執念を体現したのは岡田彰布監督(65)の超大胆タクトだ。7回に失策で同点のきっかけをつくった佐藤輝明内野手(24)を懲罰交代。8回は左脇腹筋挫傷で離脱していた湯浅克己投手(24)を投入してピンチを断った。接戦で6番打者を代え、4カ月半ぶりの登板の投手をここ一番で送り込む大勝負がズバリ。超満員札止めの虎党は歓喜の六甲おろしに酔いしれた。

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4番大山は打席に入る瞬間、揺れ動く感情のスイッチをあえて切った。

同点で迎えた9回裏1死満塁。2つの暴投で1死三塁フルカウントとなった直後、2番中野と3番森下が迷わず申告敬遠された。甲子園全体がどよめく中、悔しさや怒りの類いは「別に何もなかった」。打てば神様。打てなければ戦犯。プロ1年目から虎の4番を任された経験値が生きた。

「プレッシャーなんて、毎日あります。いつも通りでした。これまで力んで失敗してきた。『より冷静に』と思って入りました」

マウンド上には右腕ワゲスパック。低めのボール球を丁寧に3球見逃す。最後はフルカウントからの7球目、内角高め148キロ直球を強引に押し返した。前進守備の三遊間をしぶとく抜くと、ようやく感情のスイッチをオンに変換した。右拳を夜空に突き上げる。木浪らに抱きつかれると、目尻が一気に緩んだ。

前夜の第3戦は1点を追う9回裏2死一、二塁、守護神平野佳との対決に敗れた。低めに沈むフォークで空振り三振。「人生で一番すごいフォークでした。でも、あれだけのフォークを見られて幸せだったと考えるようにします」。短期決戦。落ち込んでいる暇はない。懸命に心の切り替えを図った。「試合後の体の張りが全然違うんです」。日本シリーズ特有の重圧と疲労を痛感できるのは2チームの選手だけ。もう最後まで走り抜くだけだ。

この日は1回1死二塁で空振り三振に倒れた。それでも5回1死一、三塁では遊ゴロで代名詞の全力疾走を貫き、併殺崩れの間に貴重な追加点をもぎ取った。同点とされた直後の7回2死一、二塁では再び空振り三振。最後に意地を見せた4番の姿に、岡田監督は「昨日も最後のチャンスで、今日もチャンスで打てんかったからな。最後、あそこでもう打たんとあかんやろ。1年間4番張ってきたわけやから」と納得顔だ。

大山は激闘の直後、すでに表情を引き締め直していた。「1人1人必死ですし、勝つために1つになってやっている。とにかくどんな形でも勝ったことが一番です。先のことより明日の試合に勝つだけ。またチーム一丸で頑張ります」。4番が息を吹き返した。猛虎打線に再び芯が通った。【佐井陽介】

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