阪神の旬の話題を掘り下げる企画「虎を深掘り。」の第17回はリーグ優勝を決めた9月7日広島戦(甲子園)で大ピンチを救った湯浅京己投手(26)に迫りました。先発才木浩人投手(26)が5回にまさかの危険球退場。リリーフカーに飛び乗った湯浅は1回無失点に抑えました。ブルペンの舞台裏や、心情を深掘りしました。【取材・構成=波部俊之介】
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仮にヒーローインタビューがあったなら、お立ち台には湯浅が呼ばれただろう。2年ぶりリーグ優勝を決めた9日広島戦。1点リードの5回、先発才木が頭部死球を投じて危険球退場となった。前触れのない緊急降板。大きな拍手に包まれながら登場したのは、湯浅だった。
「もう、必死。緊張する暇もない。アドレナリンはめちゃくちゃ出ました」
マウンド上では何度も肩を回しながら投球練習。プレートを外したキャッチボールから始まった。緊急登板時は投球練習数に制限がない。ルールを活用して9球ほどを座った捕手に投げたが、十分な準備とは言えない。場面は1点リードの無死一塁。数度挟んだけん制球も、普段より強く投げた。まずは代打矢野の犠打を処理し、中村奨は一邪飛。2死二塁となり、最後はファビアンを捕邪飛に打ち取った。難所を封じた無失点。「湯浅コール」が鳴りやまなかった。
「本当にホッとした。『はぁー…』ってなった」
この日は直前までストレッチを行っていた。アクシデント直後には桐敷も準備を始めたが、最終的に告げられたのは湯浅の名前。急いでキャッチボールを開始した。普段なら捕手を座らせて10球程度を投げるが、この日はそんな余裕もない。10球も投げないうちに、ブルペンカーに飛び乗った。仲間からは心強い言葉もかけられたという。
「みんな『全然ゆっくりでいいから』って。サダさん(岩貞)は『心拍数落ちつかせて』って。急いでいたけど、冷静といえば冷静でした」
緊急登板は今季初ではない。石井が頭部に打球を受けた6月6日オリックス戦(甲子園)でも、湯浅がマウンドを引き継いだ。同点の9回無死一塁だったが、後続を断って無失点。もしも同戦で一塁走者の生還を許していれば、石井の無失点記録もストップしていたことになる。それでも「今回の方がもっとドタバタした」と当日のスクランブルぶりを明かした。
実は試合の2日前、湯浅は球団スタッフに雑談で話していたことがあった。
「『優勝の日、勝ち投手になるよ』って言っていて。ふざけて言っていたのに(笑い)」
2日前の言葉が現実になる白星。照れくさそうに笑った一方、喜びは本心だ。23年のリーグ優勝時は胴上げに参加したもののベンチ入りしていなかった。歓喜の瞬間を喜びながらも、複雑な思いがあった。今回は窮地を救って勝利投手。堂々の貢献で、2年越しの悔しさを晴らす白星だった。
「やっぱり2年前とは全然違った。勝ち投手かそうじゃないかは別にないけど、その試合で投げてベンチから飛び出す瞬間が全然違う。(マウンドに)1番を争うぐらいで行った。めっちゃうれしかったです」
国指定難病「胸椎黄色靱帯(じんたい)骨化症」から1軍復帰した25年。ここまで37登板で防御率2・43と、復活の1年になっている。チームにとっても湯浅にとっても、積み重ねた日々が報われた瞬間だった。



