日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。
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プロ野球が導入を検討する「スポーツ振興くじ(野球くじ)」は降って湧いたような案件ではない。7月16日の12球団オーナー会議で表面化したが、今までも遡上(そじょう)に上がっては見送られた。
以前と状況が違うのは経営者が反対の意向を示さないばかりか前向きに転じたことだ。当日の会議はどのような様子だったのか。関係者は「過去にも野球くじは論議されたが、今回はまったく雰囲気が違った」と打ち明けた。
「今までは喧々諤々、はなから野球くじはダメといった感じでした。でも今回は違いました。オーナーは相当な危機感をもっているようです」
議長役の南場智子(DeNAオーナー)は「異論を唱えるオーナーはいなかった」と説明した。ずっとオーナーが欠席し続ける球団の真剣度は不明だが、全球団が賛意を示したのは大きい。
前に野球くじが扱われたのは終戦直後。戦地からの引き揚げ者を支援する意味合いがあったが続かなかった。また2015年、18年に超党派の国会議員でつくるスポーツ議員連盟が主導したが、プロ野球界が折れなかった。
それが今回はプロ野球オーナー側からの働きかけという。最初から突き放してきた経営トップが前のめりになった理由が野球人気の低下だとしたら、プロ・アマ全体が危機感を共有すべきだろう。
NPB(日本野球機構)がオーナー側を誘導し、たたき台を作成したのかとの問いには「そうではない」と否定し、あくまでもオーナーから自発的に出てきた案件と言い切った。
コミッショナーの榊原定征が「野球の競技者人口は07年の160万人から昨年は78万人に減少した」と語ったように、簡単に歯止めはかからない。
最近は中学野球部の地域移行が段階的に進められている。その地域側では、外部指導者、グラウンドを確保するため財源が必要になってくる。
南場は「財源確保の選択肢の1つとしてスポーツ振興くじの検討を始める」とした上で「使途を中学生の活動支援と明確にし、アマチュアを含めた野球界の総意を形成する」と語った。
野球くじの導入が見送られてきた最大の理由は、プロ野球の“汚点”になった「八百長(敗退行為)」「野球賭博」が起きうることを懸念したからだ。
1969年(昭44)に西鉄ライオンズの選手が八百長事件に関与した疑惑が浮上し、翌70年にピッチャーの池永正明ら4人が永久失格処分を受けた。東映、中日の選手も絡んだ。暴力団員との「黒い交際」が続々と表面化した。
“黒い霧事件”にとどまらず、球場での悪質な応援、迷惑行為、グッズ、チケットの高値転売など日常茶飯事で行われてきた時代があった。反社会勢力は金品のやりとりに、球場内の飲食店の運営にもかかわったという。
03年に「プロ野球暴力団等排除対策協議会」が設立され、選手がフェアプレーに専念できる環境を整えるために暴力団を排除する宣言をしたのは転換点だった。
しかし、暴力団員、準構成員が減少しても、反社会勢力の“闇”が失せることがないのは、世の中で起きる巧妙で、悪質な事件が物語っている。
南場は「スポーツベッティング(賭博)は違法で、予想にかかわるものには参加しない」と“非予想系”に限定することを強調。NPB事務局長の中村勝彦は「八百長につながるという懸念はまったく考えていない」と言い切ったが容易ではないだろう。
今後は各省庁への根回し、法整備にも時間がかかる。アマチュアとの連携は必要になってくるし、選手会サイドも反応するだろう。野球界全体の覚悟が問われる。(敬称略)



