<阪神1-2広島>◇21日◇甲子園

 ついに出た!

 阪神金本知憲外野手(42)が、広島時代の98年以来12年ぶりに代打で安打を放った。広島戦同点の8回無死一塁で登場。前田健から右前打を放ち、チャンスを広げた。18日に連続フルイニング出場を1492試合で止めてから3打席目。得点はならず、9回に勝ち越されて連勝は2で止まったが、変わらぬ存在感を発揮した。

 快音もろとも、金本の糸を引く弾丸ライナーが右前の芝に弾んだ。甲子園は総立ちの拍手、この日一番の大歓声。すべては一塁ベース上の背番号6、新代打の神様に注がれた。03年の阪神移籍後初、実に12年ぶりとなる代打安打が、復活の雄たけびだ。代走を告げられ戻ったベンチでは、真弓監督らナインも異例の総出でハイタッチをかわした。

 同点の8回無死一塁の勝負どころで、平野に代わって登場。1点がほしい場面で最低でも走者を二塁に進めるべく、前田健の真っすぐを引っ張った。威力ある22歳の若武者の145キロを、力ではね返した一打で無死一、二塁にチャンスを広げ、阪神の3連勝を夢見させた一撃だった。

 「新たな気持ちで燃えてますんで、見といてください」。前日坂井オーナーに誓った通り、連続フルイニング記録が途絶えても、心は折れていなかった。出番までベンチで声をからし、仲間に声援を送った。だが常に革手袋を装着して、いつ呼ばれてもいいように、勝負用バットも握っていた。そして何度もベンチ裏に消えては素振りを繰り返し、集中力を極限に高めた。42歳にして挑む代打稼業3打席目。現役時代、同じ苦労を知る和田打撃コーチは「ああいう場面で打てるのはさすがだ」とうなった。

 スタメン落ちの要因となった右肩痛は、簡単に治るものではない。だが決して下を向くことはなかった。心配する仲間をよそに、いつもと変わらず笑顔やジョークで練習を盛り上げた。

 周囲の騒がしさをよそに、最強の必殺仕事人は、1人静かにロッカーに引き揚げた。男は黙って勝負する。頼もしい後ろ姿に、指揮官も「(ヒットを)出してくれると思ってたよ」と改めて信頼を強調した。【松井清員】

 [2010年4月22日9時23分

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