<巨人2-3阪神>◇8日◇東京ドーム

 何という誕生日か。ウル虎大ヒーローから奈落の底、勝利を逃した責任を一身に浴びる手前で、阪神伊藤隼太外野手(24)が救われた。プロ2年目の1号2ランは、8回に均衡を破る沢村撃ち。そのまま勝っていれば大殊勲者が、9回、坂本がフェンス際に打ち返したウイニングボールをつかみ損ねて延長戦突入を招いてしまった。福留が登録抹消された日に、24歳になった若トラ。落ち込んでいる暇はないぞ。

 伊藤隼は誰よりもハラハラドキドキで心臓に悪い誕生日を過ごした。延長12回、代打桧山の高いゴロが右翼線を弾むと、胸中に渦巻いていた罪悪感がドッと消えた。天国から地獄に突き落とされ、奈落の底の1歩手前で救われた。神妙に苦笑いを浮かべて言った。

 伊藤隼

 何とか勝って良かった…。投手にも最後に打ってくれた桧山さんにも感謝しています。僕は下手くそです。周りに迷惑をかけて、申し訳ない。ああいうことをしていては、信頼も得られないですから。

 ざんげの言葉を並べるのも無理はない。1点リードの9回2死三塁。直前には長野のファウルを捕れなかった。ちぐはぐな右翼守備は尾を引く。坂本のライナーは伊藤隼のもとへ。逃げ切った…。勝った…。誰もがそう思った瞬間だ。伊藤隼がフェンスに顔や体をぶつけてよろめく。ウイニングボールをつかみ損ね、同点に追いつかれた。

 その数十分前に演じてみせた、鮮やかな打撃も台無しだった。8回2死一塁。沢村が投じた4球目の浮いたスライダーをジャストミート。白球は高々と上がり、右翼席に吸い込まれた。苦戦していた右腕から先制2ラン。24歳のバースデーに、ド派手に祝砲を打ち上げたのに、試練が待ち構えていた。

 鳴り物入りの即戦力は1年目の昨季、打率1割4分8厘とプロの厳しさを味わった。期するものがある。新年早々の1月3日。愛知・瀬戸市の実家に帰省し、すぐに近くのグラウンドに向かおうとした。父成人さんが「1日くらい、ゆっくりすればいいじゃないか」と言えば、引き締まった表情で「そんな身分の選手じゃない」。わずか1日の滞在でも練習を優先した。2年目を迎えたばかりで、危機感に突き動かされた。

 伊藤隼

 他の打席も内容は悪くない。自信を持てます。チームがこういう状況だし、少しでも力になれるよう頑張りたい。

 レギュラーの福留が左膝痛で登録を抹消された。主力不在の間、11年ドラフト1位の逸材への期待は大きくなる。死闘の経験を糧に、福留の代役として前進する。【酒井俊作】