<巨人2-1広島>◇22日◇東京ドーム

 巨人の2年連続リーグ優勝を記念して、生え抜きの2枚看板が「巨人論」を交わした。この日3番で先発出場した高橋由伸外野手(38)と、前日21日は帯状疱疹(ほうしん)で欠場し、この日は8回から途中出場した阿部慎之助捕手(34)。伝統球団を背負ってきた寡黙な天才と太陽のようなキャプテン。交わらなそうな2人が久しぶりに対談した。お互いの現役中では最後となる可能性が高い「サシ」トークです。【取材・構成=広重竜太郎、為田聡史】

 先に食事の席に着いたのは阿部だった。心なしか緊張しているのか、メニューのページをパラパラとめくる。焼きレバー、トウモロコシのかき揚げ、アスパラ焼き…。せわしなく、注文しながら切り出した。

 阿部

 由伸さんと2人での食事は久しぶりだなぁ。昔はよく連れていってもらったよ。

 高橋由の到着前に聞いておきたかった。クールな天才打者と陽気なキャプテン。ぶつからないのか?

 阿部

 全然ないよ。嫉妬も全くない。憧れていた人だから。16年前、大学1年の時は早慶戦も見に行ったんだよ。プロは数字が求められる世界だけど、由伸さんの成績を上回ったとしても抜いたとは思えない。

 少し遅れて、高橋由が現れた。ソファに座ったが、微妙な距離感があった。ズバリ聞いた。本当は仲良くないのでは?

 高橋由

 俺たちがベッタリするのも、おかしいだろ?

 でも、見ていないようで互いのことは見ている。そういえば昔、長嶋監督に「おい、ヨシノスケ」と呼ばれたことがあったな。

 阿部

 コラボでしたね !

 通じる部分を感じたかな。

 ミスター伝説で空気が和らいだ。2人で顔を見合わせて笑った。

 高橋由

 俺は慎之助のハッキリしている性格がうらやましい。すごく野球に向いている。去年の日本シリーズで沢村をポカリとやったのは、本当に怒っていただけだと思うけどなぁ。思い切れるから、ここぞで中途半端がない。

 阿部

 由伸さんは武闘派じゃない。由伸さんが生え抜き選手で一番年上。すぐ下に、自分みたいのが1人いないとダメなんです。

 水と油ではなく、補い合っているということか。

 高橋由

 慎之助がキャプテンになってからはお前のチーム。お前がやりやすいチームにしないといけない。でも慎之助にモノを言えと言ったら、俺しかいないと思っているよ。

 2人は選手会長やキャプテンを担いながら、10年以上も巨人を引っ張ってきた。その中でも今季はぶっちぎりの優勝だった。

 阿部

 今年は本当に強いと思う。選手が勝ち方を知ってきた。ヒットが少なくても点を取れる時に取れば、粘って勝てる。あっさり負ける時もあるけど、何十敗するから(そういう)負け方もある。切り替えられるかが大事になる。

 阿部は大好物のレバーを焼き石の上に置いた。はしで押さえ、視線を下げたまま、若き日を振り返った。

 阿部

 自分がルーキーの時は試合に負けたら誰もしゃべらない。グラブ、スパイクを磨く「シャカ、シャカ」という音だけがロッカーに響いていた。

 高橋由

 毎日、CSの一発勝負に負けちゃったみたいな空気だった。変えたのが移籍組。小笠原さん、谷さん、古城が来て変わった。

 阿部

 パ・リーグの選手は「また明日だ」という空気を持っている。「これだ ! 」とピンと来た。力のある主力は「明日打てばいい」という気構えでいい。若手にも伝わり、肩の力を抜かせる。生え抜きでガチガチにやっていたら逆に勝てなかったと思う。

 高橋由

 俺らが30歳前後になっていたというタイミングも良かったよね。新たな空気を取り込めた。

 阿部

 今は勇人(坂本)も試合前はロッカーで漫画を読んでいたり。何分間の切り替えが浸透している。

 過去が現在の強さに結び付いている。今回で高橋由は7度目、阿部は6度目のリーグ優勝になった。

 高橋由

 いや、回数は一緒なんだよ。09年は腰のケガで1打席しか立っていない。だから1年抜けているという感覚。「治らなかったら、もう終わり」と覚悟した。当時の悔しさは一生、根に持っている。

 冷静な高橋由が急に熱くなった。焦げ始めたレバーに構わず、阿部が相づちを打つ。

 阿部

 離脱はチームにとっても痛いけど、本人の心が一番痛い。でも由伸さんは乗り越えた。自分もドーンと落ちる年が来るかもしれない。その時に、どう振る舞うかじゃないですか?

 高橋由

 翌年の宮崎キャンプで優勝パレードに参加させられたのは、きつかったな。何で貢献していない、俺が行かなきゃいけないのか。でもいろんなものを失った後ろめたさがあった。ガタガタ言うところじゃないな、と。

 阿部

 そこがプリンスと自分との違いでしょ !

 大人じゃないから「絶対に無理 ! 」と言っちゃうと思う。

 08年。阿部にも悔いがあった。リーグ優勝が決定した試合で右肩負傷。複雑な思いを抱えながらも、乾杯の音頭を取るためだけに病院からビールかけ会場に駆けつけた。

 高橋由

 よくちゃんと来たなと思うよ。でも、あと半分は当たり前だなと。

 組織の論理では常にリーダーはいないといけない。阿部もうなずいた。レバーは、もはや真っ黒だ。

 高橋由

 自分の言いたいことを言うだけじゃ済まない立場。それが生え抜き、中心選手の役目だから。

 熱いトークは、将来へと広がっていった。

 高橋由

 報道の中で何年後かの監督候補として、松井さんや俺、慎之助という名前が出る。年齢が近づき、夢や目標じゃなく「やれるようにならないといけないのかな。どういう風にやればいいんだろう」と自分に言い聞かせるし、慎之助もそうあってほしい。互いの使命だと思う。

 阿部

 由伸さんはケガを乗り越えたこと、振る舞いを忘れないで指導者になってほしいし、俺もなんなきゃいけない。

 グラスもはしも完全に止まった。石焼きの余熱の音が静かに響いた。

 阿部

 原監督からの怒られ役もだんだん、由伸さんから俺になってきました。

 高橋由

 小笠原さんが入団した07年のキャンプで、生え抜きの俺らが一斉にケガをした日があった。監督に「他から来たやつが黙々とやっているのに、お前らがしっかりしないと」と怒られた。俺に怒れば周りも感じる。俺も慎之助もその時が来れば、怒られ役を探すと思う。10年後だったら勇人か。長野か。

 阿部

 監督は、その役回りは生え抜きと決めていると思う。伝統じゃないけど、継承していきたい。

 2人の時間は1時間30分を超え、阿部がいったん席を離れた…。

 高橋由

 慎之助がいるから俺は自分でいられる。無理しなくていいし、キャラを変える必要がない。いなかったら俺はもっと何かを作らなきゃいけなかった。

 戻ってきた阿部にも、高橋由について聞くと、しばらく考えてから口を開いた。

 阿部

 どうなんだろうね…。これだけ長く一緒にいると、もう女房みたい。昨年から自分がオジさんになったと感じるようになったけど、もっと早く由伸さんは感じて乗り越えてきた。少しでも長く一緒にプレーしたい。やっぱり格好いいよ。うん、由伸さんは。

 ◆高橋由の09年

 持病の腰痛に苦しみ、春季キャンプ初の2軍スタートとなった。8月28日の阪神戦でようやく復帰も、藤川の前に代打で三振に終わり、手術に踏み切ることを決断。1打席でシーズンを終えた。

 ◆阿部の08年リーグ優勝決定時の負傷

 10月10日ヤクルト戦、二塁走者でけん制球で帰塁した際に右肩を負傷。試合中に病院で「右肩関節挫傷」と診断され、胴上げ時には戻れなかった。CSは欠場。日本シリーズは代打と指名打者だけの出場。