新型コロナウイルス感染症の収束はまだまだ見えないが、スポーツ界は観客数の上限緩和など少しずつ「通常モード」へ動きだしている。室内競技で厳しい条件下にあるボクシングも、感染拡大防止のルールを徹底した上で興行を再開。9月8日には大阪市内のホテルでWBA世界ライトフライ級スーパー王者京口紘人(26=ワタナベ)の3度目防衛戦が発表された。

コロナ禍で興行の自粛など動きが停止した後、男子の世界戦では国内初。11月3日にインテックス大阪で開催される。挑戦者は同級11位、14戦無敗(12KO)のタノンサック・シムシー(20=タイ)。ただ、さまざまな条件付きの発表でもあった。

海外渡航の制限から、挑戦者が来日できる確約はない。発表会見もパソコンの画面越し、オンラインでの対応だった。またマッチコミッショナーやレフェリー、ジャッジのオフィシャルも団体の本部から選任し、来日するのが通例だが、今回の世界戦はそれらを日本国内でまかなうよう調整しているという。また、タイからの来日がかなわなかった場合に備え、代替の選手も検討と異例ずくめだ。

こういう事態は何より、主役となるボクサーの心理状態をおもんばかる。ボクシングは厳密な体重によって区切られる競技。最大の敵は対戦相手だけでなく、減量という己との戦いでもある。コロナ前も、減量に失敗しての体重超過が話題になってきた。それほど体重を絞るのは極限の戦い。対戦相手もどうなるか分からない状況下では、精神的負担も大きいはずだ。

京口の世界戦予定も、当初は3月だった。その上で「(試合間隔が)空いたのは仕方ない。トレーニングできる時間が増えてよかったと、プラスに捉えている」と言い切った。本音では不安を抱いているとしても、こう言い切れるのがチャンピオンの心だと思う。

体だけでなく、心もギリギリまで削って戦うところにボクシングの魅力がある、と個人的に思っている。京口にとって、すでに戦いは始まっていたのだろう。11・3、魂の戦いを楽しみにしたい。【実藤健一】