ボクシングで元世界3階級制覇王者の八重樫東(37=大橋)が1日、現役引退を表明した。

オンラインの会見では、15年間の現役生活について語ると同時に今後の活動などについても言及した。また、歴代担当記者が、八重樫との思い出を振り返った。

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ボクサーが唯一身につけることを許された防具がある。ノーファウルカップ。急所を保護するためにつける。八重樫は拓大時代からのものを使ってきた。この愛用品にも家族愛が表れていた。

モットーの「懸命に悔いなく」。その文字とともに、長男圭太郎くん、長女志のぶちゃん、次女一永ちゃんと3人の子供の絵が描かれている。いつからか、世界戦前は単身でマンション生活を送るようになった。練習、試合に集中するため。子供の絵は3階級制覇後の防衛戦を控え、マンション生活の合間に自らが描いた。

1カ月以上家族と離れ、最初の頃は週末には家に帰っていた。終盤はそれも我慢して、テレビ電話での会話も封印した。「パパ頑張って」という、涙声の留守電が入っていたこともしばしばだった。

試合中は長男の声援が会場にいつも響いていた。勝ったリング上では、彩夫人と一家5人の記念撮影も恒例だった。「子供に引退は言っていない。これからも。試合がなければ分かるでしょう」と素っ気なく言った。何よりもノーファウルカップが、家族を思い、家族と一緒に戦ってきたことを示していた。【河合香】

◆八重樫東(やえがし・あきら)1983年(昭58)2月25日、岩手・北上市生まれ。黒沢尻工3年でインターハイ、拓大2年で国体優勝。05年3月プロデビュー。06年東洋太平洋ミニマム級王座獲得。7戦目で07年にWBC世界同級王座挑戦も失敗。11年にWBA同級王座を獲得し、13年にWBCフライ級王座を獲得して3度防衛。15年にIBFライトフライ級王座を獲得し、日本から4人目の世界3階級制覇を達成した。2度防衛。160センチの右ボクサーファイター。通算28勝(16KO)7敗。家族は彩夫人と1男2女。