米ラスベガスで10月31日(日本時間11月1日)に防衛戦を行うWBA、IBF世界バンタム級統一王者井上尚弥(27=大橋)が29日(同30日)、MGMグランド・カンファレンスセンターで行われた公式会見に臨み、挑戦者のWBA同級2位モロニー(29=オーストラリア)と初対面した。静かに闘志を燃やし、万全の仕上がりをアピールした。9月に引退した元3階級王者八重樫東氏(37)は、井上の強さの秘訣(ひけつ)を3つのポイントで解説。中盤KO勝ちを予想した。

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-世界が注目する一戦です

八重樫 いよいよですね。(昨年の)WBSS決勝でドネアに勝ち、さらに先のステージです。世界が見ている試合ですし、勝てば、尚弥の評価がまた一気に上がる気がします。

-八重樫さんは引退直前の8月、現役最後のスパーリングとして井上選手と拳を交えたと聞きました。井上選手が高校生の頃からスパーリングをしてきた八重樫さんだから分かる、強さの秘訣(ひけつ)とは?

八重樫 今回の試合をより楽しく観戦するために、僕の考える尚弥の「強み」を、3つ挙げたいと思います。1つ目は「左ジャブ」です。ジャブと言っても、いろんなジャブがあります。僕が戦った(4階級王者の)井岡一翔君のジャブはすごく硬くて、もらうと目が腫れるようなパンチです。それに対し、尚弥のジャブは硬さではなく、インパクトの瞬間に爆発するようなパンチなんです。

-「爆発」するジャブですか。それは、相手にどんな影響を与えるのですか?

八重樫 僕は基本的に、ジャブを打たれても気にせずに前に入っていくタイプなんですが、尚弥とやると、ジャブが強いので、前進を止められてしまうんです。足が止まると、いつの間にか後手後手になって、気がついた時には、ガードを固めて、ディフェンスに専念させられているんです。相手をその場から動けなくして、自分は良いポジションからコンビネーションを差し込んでいく。彼は、そういう展開をつくるのが抜群にうまいんです。モロニーもオーソドックス(右構え)の選手なので、試合序盤は、尚弥の左手の使い方に注目してほしいですね。

-2つ目のポイントは?

八重樫 「姿勢」です。僕の場合は、少し前傾でガードを固め、頭をふって前に出て行くのですが、尚弥は姿勢がよく、上半身が、すっと立った状態で構えています。その理由は骨盤にあるんです。日本人は基本的に骨盤後傾で、猫背になりやすいのですが、尚弥は骨盤の上にしっかり背骨が乗っています。それによって欧米の短距離選手のように、ヨーイドンの1歩から速い動きができる。それが、尚弥の初速のスピードにつながっているんです。背筋が立っていることで、モーションも小さくなり、打ち出す瞬間が相手に分かりにくいというメリットもあります。

-左手、姿勢…。最後に3つ目は?

八重樫 「フットワーク」です。尚弥はものすごく足が動く選手です。相手のパンチを、ボディーワークではなく、足で外すんです。アマチュア出身の選手は全体的にそうなのですが、彼はその1歩先をいっています。相手がパンチを打とうとした、その一拍前に、バックステップを2回踏むんです。打ち気な相手に対し、瞬間的に2つ下がることで、攻撃の意欲をそぐのです。そして、下がった次の瞬間には、自分の攻撃のスイッチが入っている。そういう小さな駆け引きを続けて、チャンスをつくりだしているんです。ぜひ、足もとも注目してください!

-3つのポイント、非常によく分かりました

八重樫 尚弥=パンチ力という印象を持っている人は多いと思いますが、冷静に見ていると、本来は、ものすごく繊細なボクシングで試合を構成している選手なんです。フットワーク、ジャブ、カウンター…。倒す倒される、殴る殴られるだけでなく、そういう技術に注目して見ると、さらに面白いと思います。

-最後にモロニーの特徴を踏まえ、試合の展望を

八重樫 モロニーはスムーズに足を使えて、ディフェンスもうまい選手です。攻撃のバリエーションも豊富ですし、穴を見つけるのが難しい、やりにくい相手だと思います。試合としては、足を使ってポイントをピックアップしようとするモロニーを、尚弥が追うような展開になると思います。ただ、尚弥は穴を見つけて、ついていくというより、穴を強引にこじ開けて、壊しに行くタイプです。予想は、ずばり、中盤のKO勝ちです! 最高の試合を期待したいですね。

◆八重樫東(やえがし・あきら)1983年(昭58)2月25日、岩手・北上市生まれ。黒沢尻工3年でインターハイ、拓大2年で国体優勝。05年3月大橋ジムからプロデビューし、11年にWBA世界ミニマム級王座を獲得。13年にWBCフライ級、15年にIBFライトフライ級王座を獲得し、3階級制覇を達成。今年9月に引退を発表。通算28勝(16KO)7敗。

◆テレビ放送 WOWOWは11月1日午前10時半からWOWOWプライムで生中継。