11年ぶりに行われたノアの日本武道館大会のリングで、武藤敬司(58)が新たな歴史を作った。GHCヘビー級王者の潮崎豪(38)を29分32秒、フランケンシュタイナーで破り、ノアでの初タイトルを手にした。新日本IWGP、全日本3冠王座に続く、史上3人目の「3大メジャー」制覇。42歳だった高山善広、佐々木健介を抜き、史上最年長での快挙となった。不屈の58歳は、プロレス発展と日本を元気づけるため、まだまだリングで暴れ続ける。

  ◇   ◇   ◇

58歳は限界寸前だった。武藤は20歳年下の潮崎を得意の4の字固めなどで追い込んだが終盤に逆転を許す。逆に強烈なラリアットでたたきつけられた。「ギリギリ。痛くて全身交通事故に遭ったみたい」。立っているのもやっとの状態だったが、天才的なセンスだけはさびつかない。「一発を狙った」。一瞬のスキをつき、両足で相手の頭をはさんで丸め込む、フランケンシュタイナーで逆転の3カウントを奪った。

00年にノアを旗揚げし、09年に亡くなった故・三沢光晴さんとは同い年。一緒にプロレス界を引っ張ってきただけに「ここで俺が負けたら三沢も弱かったことになる。だから応援してくれたんだよ」。解説席には引退した天龍や小橋、田上らの姿もあり、かつて切磋琢磨(せっさたくま)してきた仲間にも元気な姿を見せたかった。

ボロボロの膝に何度もドクターストップを受けてきた。18年3月、変形性ヒザ関節症を発症。悩んだが「続けられる」との医師に出会い、人工関節を埋め込む手術を決断した。一時は歩くことも困難で約1年間の欠場。それでも「いつも背中合わせだったから」と引退は考えず、気力を振り絞って復帰。昨年12月には「俺も夢を追い求めていいだろう」と王者潮崎に対戦を要求した。

「昨日の武藤に勝つ」思いでリングに立っている。観客席には応援してくれる同年代がたくさんいた。「コロナ禍で年寄りが姨捨山に追い込まれているような世の中。そういう人たちに元気を与えたい」。58歳の新王者は、まだまだ歩みを止めるつもりはない。【松熊洋介】