ボクシングWBAスーパー、IBF世界バンタム級王者井上尚弥(28=大橋)が日本人初の2戦連続「聖地」防衛成功に向けて“魔球”を用意した。19日(日本時間20日)に米ラスベガスでIBF世界同級1位マイケル・ダスマリナス(28=フィリピン)との防衛戦(WBA5度目、IBF3度目)に備え、16日(同17日)に現地入りした大橋秀行会長(56)が明かした。投手の変化球ツーシームにたとえ、強打一辺倒だったパンチに微妙な強弱をつけ、挑戦者を翻弄(ほんろう)する作戦だ。

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16日に試合会場のホテルに入った井上はSNSを通じ「大橋会長到着でございます。あとは時間の過ぎるスピードが遅すぎる1日半をゆっくり過ごします」と合流を報告。あとは前日計量を待ち望んでいる状況を伝えた。リミットまで残り4キロで渡米した減量面も順調そのもので「ウエートもOKです」とSNSで報告した大橋会長は、井上のパンチに“魔球”が加わったことを明かした。

ダスマリナス戦に向けた井上の国内スパーリングをすべて見届けた同会長は、強打一辺倒だったパンチに強弱がつき、練習パートナーを幻惑するコンビネーションを何度もチェックしたという。大好きな野球にたとえ「160キロの剛速球に150キロちょっとのツーシームが加わりました」と口調を強めた。

パンチ速度の微妙な変化があるだけで、対戦相手はタイミングが読みにくく、防御対応が遅れるとし「強弱が入るだけで、避けにくいと思います」と分析。さらに井上の得意パンチの1つ、左ボディーブローを決め球のフォークボールと位置づけ、投球術になぞらえてダスマリナスの攻略パターンを説明した。

「剛速球とツーシームが顔面に入った後、最後にボディーブローというフォークが決めた球になるでしょう。ここに(井上)尚弥の素早いサイドステップも入ってパンチが出てくる位置や角度も変わるのです。変幻自在だと思います」

ラスベガス入り後、あまたの米メディアの取材をオンラインで対応した井上は「(ダスマリナスに)何もさせずに勝つことがテーマです」と自信を込めて言い切った。初めて味わうラスベガスでの有観客興行。本場ファンが注目するリングで、ダスマリナスを“魔球”で圧倒する準備は整った。2戦連続の「聖地」防衛成功に向けて死角はない。【藤中栄二】

○…井上のファイトウィーク・ドキュメンタリー「リアルタイム」が米プロモート大手トップランク社公式YouTubeで配信開始となった。16日配信のエピソード1では、同社カメラマンのミッキー・ウィアムス氏の要望を受けながらPR画像を撮影。その後、試合会場に向かい、リングチェックする姿や現地メディアの取材に応じるシーンが編集されている。今後も試合前日まで随時、新たな動画が更新されていくという。

◆ツーシーム シームとはボールの「縫い目」。2本の縫い目を縦向きにして、人さし指と中指を縫い目に沿って握る。直球よりもスピードは劣る一方で、打者の手元で微妙に変化する。

◆井上の今後日程 17日(日本時間18日)から世界戦に向けたスケジュールが組まれており、早速、試合前の記者会見に臨む。挑戦者ダスマリナスとは18年冬に元WBC世界バンタム級王者の弟拓真の練習パートナーとして来日時に大橋ジムで顔を合わせているものの、試合決定後は初対面となる。翌18日に前日計量に臨んだ後、19日の防衛戦に備える。また生中継するWOWOWのエキサイトマッチ公式ツイッター(@Excite_Match)で会見(日本時間18日午前4時ごろ)、計量(同19日午前5時ごろ)が生配信される。