挑戦者の同級1位矢吹正道(29=緑)が、9度目の防衛を狙った王者寺地拳四朗(29=BMB)を10回TKOで下し、世界王者を奪取した。矢吹は13勝(12KO)3敗、寺地は初黒星で18勝(10KO)1敗となった。

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攻められていても、なぜか余裕があって捨て身のカウンターパンチを打てる。独特な雰囲気を持つ矢吹の持ち味が存分に発揮された試合だった。前に出てきた寺地の右に対して右、左にも右を合わせる徹底したカウンター攻撃が的中した。勝負を決めた10回、カウンターの左ボディーで寺地を後退させた。王者にとって想定外のパンチだったのだろう。相当効いたようで顔をそむけ、体を曲げていた。矢吹の捨て身の打ち合い、持てる力すべて出した最後のラッシュは「あしたのジョー」をほうふつさせた。

一方の寺地は正確無比だったはずの左ジャブが序盤、微妙に外れた。得意のボディー攻撃が少なく、ジャブ一辺倒な部分もありジャッジの支持を得られなかったと感じた。コロナウイルス感染で間違いなく体力は落ちていたはず。本調子でなかったと思う。しかし4回の公開採点で劣勢が分かると、自らのスタイルを変えて攻め続け、盛り返した。寺地の意地、新たな境地を見た。過去の防衛戦で、もっとも面白い内容だったと見ている人は感じたのではないか。今年の年間最高試合と言って良い。(元WBA、WBC世界ミニマム級王者)