「本当にバランスの取れた理想的なボクサー」-。ボクシングの元WBC世界スーパーフライ級王者で、現役時代は「アンタッチャブル」の異名を取った川島郭志さん(51)が、2年ぶりの国内リング登場となった井上尚弥の世界戦をチェックした。

【井上尚弥】8回TKO勝ち 難敵ディパエンに苦しむも防衛/世界戦ライブ詳細>

何と言っても挑戦者のタフさに驚いた。もっと早く終わると予想していた。おかげで井上の多彩なテクニックを見ることができた。強い左ジャブと軽快なフットワークに加えて、相手のパンチを見切っての狙い打ち、左アッパーのトリプルからのボディーブロー、ガードの間を突くパンチ……。彼の強さがよく分かった試合だった。

左ジャブとワンツーのボクシングの基本がしっかりとできている。足も動いて、目もいい。その上でパンチが強くて、テクニックの引き出しが多い。バランスの取れた理想的なボクサーだ。格下相手だが油断もなかった。体と技を動かすメンタルも強い。あらためて穴がない選手だと思った。

これだけ強さを継続できているのは、私の想像だが、ずっと父親が指導している影響が大きいと思う。一般のトレーナーだと甘えが出ることがあるが、子供の頃から性格を知っている父親は、うまくメンタルをコントロールできるので、王者になっても厳しく指導できる。井上はずっと生活すべてがボクシングに向いている。それが強さを支えていると思う。

来年は王座統一戦が計画されているが、今の心技体をキープできれば、スーパーバンタム級でも十分通用するだろう。相手がいなくなれば階級を上げるしかない。どんどんチャレンジしてほしい。彼の挑戦はファンの夢でもある。今や井上は日本の希望。彼に憧れてボクシングを始める子供が増えれば、底辺が広がって、もっと日本のレベルが上がると思う。(元WBC世界スーパーフライ級王者)