後楽園ホールに、最後の力強いアナウンスが響き渡った。新日本プロレスを支えたリングアナウンサー、尾崎仁彦(きみひこ)氏(49)が、15年半握り続けたマイクを置いた。

ラストコール。「常に全力でやってきたつもりなので、最後だろうとやることは一緒です」。特別な意識は持たず平常心で臨んだ。だが、メインイベント後に本隊の選手たちに囲まれると感極まった。「家族と同じくらい家族でした。ありがとうございました」と声を震わせた。胴上げで3度宙を舞った。

当初、先月29日の後楽園大会を最後と予定していたが、新型コロナの影響で大会自体が中止に。「しょうがないな。このまま終わってもいいかな」という思いもあった。だが、「リング上に上がる人なんだから、やった方がいいんじゃないの?」という選手らの声もあり、この日に再び「ザキファイナル」が設定された。

ツイッターで退職を発表した際には、1万以上の「いいね」がついた。過去最高の反響があったといい、「ありがたい。ありがたいんですけど、気づいたのが今更でした」と、苦笑いだった。

尾崎氏が新日本プロレスに入社したのは02年。複数人のスタッフが退職したというニュースを見て「これは募集がかかるに違いない」。当時働いていたスーパーを退職し、募集がかかるのを待った。同年にアルバイトで入社すると、2年間は主に営業を務めた。04年に正社員になると、06年9月の山形大会で初コール。日本を代表するリングアナウンサー田中ケロ氏の退団後、人気リングアナとして新日本プロレスを支えた。

給料面で恵まれているとは言えない時期もあったが、苦にはならなかった。「楽しくてしょうがなかった。家族より接する時間が多い。しょっちゅう修学旅行に出かけるような気分でした」と19年半を振り返った。

今後は、自らの夢を追いかける。「会社50周年の節目ですけど、私も50周年の節目。このタイミングで離れてしまいますけど、どこかに消えていなくなるわけではない。外から応援する側に回るつもりでいます」と話した。尾崎氏はいつまでも、プロレスの力を信じている。【勝部晃多】