関大ボクシング部に「タイソン」がいた。栃木国体ライトフライ級3位の上村帝尊(かみむら・たいそん、4年)が、11月22日から始まる全日本選手権(東京都墨田区総合体育館)に初出場。初めてとなるフライ級で日本一を目指す。

「タイソン」の名は、元世界ヘビー級王者マイク・タイソンにあこがれ、大好きだった父哲也さんが名付けた。父は日本拳法など格闘技にいそしむも、ボクシングだけはなぜか家族の大反対にあい、夢を1人息子に託したという。

子ども時代にいじられそうな名前だが、「タイソン選手の現役を知らない世代なので。呼びやすい名前だし、普通に『タイソン』と呼ばれていました」と上村は言う。

ただ、中学までは野球。奈良・王寺工高でようやくボクシングを始めた。「父の考えで、スポーツすべての基礎は野球にあると」。主に外野手だった野球をへて、ボクサーデビューを果たした。

「本家」タイソンは最重量のヘビー級だが、上村タイソンは最軽量の道を歩んできた。ただ、スタイルは「タイソン流」。YouTubeなど動画を駆使して研究した。「ピーカブースタイルで突っ込むのが自分のボクシングです」。

グローブで顔を隠し、のぞき見るようなスタイルで頭を振りながら相手に圧力をかける。タイソンが一世風靡(ふうび)したボクシングを「関大のタイソン」も学んできた。一方で「名前のプレッシャーはすごいですね。名前負けじゃないけど、へたなことはできない」と名前の圧とも闘う。

戦績はここまで「本家」に誇れるものはない。卒業後は建設業を営む父の後を継ぐべく、専門学校に進む予定。今回の全日本で「爪痕を残せたら」社会人のアマチュアでボクシングを続ける意思はあるが、プロの道は現時点で消している。

「今のレベルで(プロでは)通用しないのは分かっている。プロとアマは違うことも分かっています。ただ今回、結果を残せたら…」と含みを持たせた。

父はプロになる意思がないことを聞き、「そうか」と残念そうに返したという。アマボクシング界の強豪が集うフライ級で結果を残せば、気持ちも揺らぐ。「関大のタイソン」が人生においても大勝負に臨む。【実藤健一】

◆上村帝尊(かみむら・たいそん)2000年(平12)12月18日、奈良県北葛城郡上牧町生まれ。小学4年から中学まで野球。王寺工高からボクシングを始める。高校3年時、最軽量のピン級でインターハイ出場も初戦で敗退。大学では今年の栃木国体ライトフライ級3位が最高成績。身長165センチの左ファイター。