プロレスリング・ノアのGHCヘビー級王者、清宮海斗(26)が“プロレスリングマスター”から必殺技を託された。

憧れの師、武藤敬司(60)は、21日の東京ドーム大会で現役最後の戦いに臨む。同大会のセミファイナルで、ノアのエースとして新日本プロレスの現IWGP世界ヘビー級王者オカダ・カズチカ(35)と対する男が、受け継いだ武藤イズムについて語った。

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「本当にあれはもう、ストーカーでしたね」と、清宮は振り返る。「頭の中が武藤さんだらけでした。ご飯を食べていてもお風呂に入っていても、武藤さんのことしか考えていなかった」。昨年6月、武藤が電撃引退を発表した直後のことだ。レジェンドの背中を追いかけてきた男は、喪失感と焦燥感にかられていた。

1カ月後の日本武道館大会で、その武藤との対戦が組まれた。それまでのシングル戦は3戦2敗1分。勝利のラストチャンスをつかみ「俺自身が武藤敬司になってやろう」と決意した。過去のビデオを繰り返し見て、著書も熟読。道場では必殺ムーブをまねし、“武藤漬け”の日々で備えた。

迎えた試合当日。“プロレスリングマスター”顔負けの足4の字固めで、ギブアップ勝ちをつかんだ。だが、最初で最後の白星を上回る出来事が試合後に待っていた。「お前の弱点は決め技がいまいちなところ。俺に勝ったご褒美だよ」という言葉とともに、武藤からシャイニング・ウィザードなどの必殺技を託された。前代未聞の伝承劇。レジェンドは「技は反復練習。(最後の足4の字固めは)なかなか逃げられなかった」と、後継者が流してきた汗をしっかり見ていた。

「与えてもらったものは、本当に大きい。大切に残していきたい」と、清宮はかみしめた。譲り受けた必殺技と武藤イズム。もう、まねではない。だからこそ「武藤さんの動きで武藤さんを超えることはできない」と技を自己流に昇華。その直後に2度目のGHCヘビー級王座を戴冠し、ここまで4度防衛。ノアの顔として結果を示している。

憧れを抱いたのは、意外にもプロ入り後のことだった。多くの選手の動画を研究する中で、その動きにくぎ付けになった。技はもちろん、入退場の魅せ方やしぐさ、視線まで全て。プロレスはただ強さを、ただ戦いを見せればいいわけではないと、改めさせられた。 リングを下りてもプロレスのことしか頭にない武藤。それは、清宮も同じ。だから、親子ほどの年齢差のある大先輩の言葉でも、ストレートに胸に届く。「お前も精進しろよ!」。送られた全てが、プロレスラー清宮の道しるべとなっている。【勝部晃多】

 

◆清宮海斗(きよみや・かいと)1996年(平8)7月17日、埼玉県さいたま市生まれ。15年3月、ノアに入門し、同12月にデビュー。17年12月に約半年間のカナダ遠征から帰国。18年12月に最年少でGHCヘビー級王座獲得。22年9月にN1を制し、2度目のGHCヘビー級王座獲得。必殺技は変形シャイニング・ウィザード。180センチ、98キロ。