“プロレスリングマスター”武藤敬司(60=プロレスリング・ノア)が、今日21日、ノア東京ドーム大会で現役ラストマッチに臨む。対戦相手は、自ら指名した新日本プロレスの“制御不能なカリスマ”内藤哲也(40)。前日20日に行われた会見では、両足大腿(だいたい)部肉離れの負傷を抱えながらも「もう大丈夫。明日は思い切り、内藤選手をぶちのめしてみせます」と力強く宣言した。圧倒的な実績を誇るレジェンドは、最後のリングでどんな戦いを見せてくれるのか。

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「かつて『プロレスはゴールのないマラソン』と言った自分ですが、ゴールすることに決めました」。あの突然の引退宣言から8カ月。武藤が、名勝負を繰り広げてきたマットから降りる日がやってきた。95年10月の高田戦や09年1月の棚橋戦…。思い出せばきりがない東京ドームの夢舞台で、最後の芸術を描く。

「天才」が指名したラストマッチの相手は、新日本の“制御不能なカリスマ”内藤。自身がすでに新日本から離れていた05年に入門した男とは、直接の接点を持たないが「弟子ではないけど好意を持ってくれているのは知っていた。彼となら熱い試合ができると思う」。最後の最後まで魂を通わせる勝負にこだわった。

武藤は84年に新日本入門。エースとしてプロレス黄金期を築き、同日入門の蝶野正洋、橋本真也さんと「闘魂三銃士」と呼ばれた。02年に全日本に電撃移籍し、社長も兼任。21年11月にはノアのGHCタッグ王座を獲得し、メジャー3団体でシングルとタッグの両王座を完全制覇した。長きにわたって、プロレス界の最前線を走り続けた。

「燃え尽きて灰になりたい」。その言葉通り、死力を尽くしてリングに上がる。10年に右膝の手術、18年には両膝の人工関節置換術を受けて長期離脱した。昨年は、左股関節唇損傷により欠場。59歳で決断した引退は「技をかけるときに痛みが走る」ことが理由だった。

1月22日の化身グレート・ムタ引退試合では両足大腿(だいたい)部肉離れを負った。一時は引退試合出場に黄色信号。「自分に負けそう」「プレッシャーに押しつぶされそう」と弱音をはくこともあった。それでも、再生医療やブロック注射、動かせる上半身のみでのトレーニングに懸命に励んできた。全ては「最高のアートを作りたい」がため。プロレスに人生をかけてきた“プロレスリングマスター”が、東京ドームで迎えるラストリングで、最後のLOVEを叫ぶ。