無敗の格闘家で、今年4月にボクシング白星デビューを飾った東洋太平洋スーパーバンタム級8位那須川天心(25=帝拳)が2連勝を飾った。メキシコ・バンタム級王者ルイス・グスマン(27)との8回戦に臨み、計2度ダウンを奪って3-0の判定勝ち。狙ったKOこそ逃したものの、メキシコ王者から1回に左ストレート、7回には右フックでダウンを奪取。ジャッジ3人がフルマーク(80-70×3)の大差判定による白星で、ボクサーとしての進化をみせつけた。
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いきなり左がさく裂した。サウスポーから那須川が左ストレートでグスマンからダウンを奪った。7回に右フックでダウンを追加。左拳で何度も顔をはじき、右フック、左ボディーアッパーと多彩なパンチを駆使。6回には左ボディーで追い詰め、ラッシュも仕掛けるなどフルマークの大差判定勝ちだった。
「ダウンは取れて、進化している姿はみせられたけれど、最後が…最後がうまくいかない。セコンドにどうやって攻めればいいですかねと聞きました。人生うまくいかないというか。これに懸けてずっとやってきた。なかなかうまくはいかないが、成長した姿はみせられた。僕の本気をみせられた」
4回途中、左拳に「めちゃくちゃ稲妻が走って痛くなった」と痛めていたと明かした。アマ150戦、非公式試合を含めて24戦のプロ経験を持つグスマンは高いガードで前に出て、ボディーを打たれても倒れないタフなタイプ。全力の左が打てず、右のみでの攻略は簡単ではなかった。
最終8回終了間際、左カウンターでダウンさせたが、ゴング後と判断され「多少は当たっていたので、あれで倒して終わっていたらいいな…はありましたが。なかなかうまくはいかないが、見せ場はつくれた」とプラス思考を貫いた。KOは奪えなかったが、初陣より1つ多くダウンを奪取。随所に「天心ワールド」をみせた実感はあった。
ボクサーになるため、那須川は歩き方から変えた。かかと重心となるキックに対し、ボクシングはつま先重心。足先に体重が乗ればパンチにパワーが増す。元世界2階級制覇王者の粟生隆寛トレーナーに歩行方法の助言を受け「少しでも強くなるなら」とつま先重心の歩行に変更した。毎日、体温を計測し、0・1度下がっただけで「代謝が良くないかも。しっかり食べて燃焼させて体温を上げたい」と敏感に反応し、成長に全エネルギーを注ぐ。「ここまでの人生がすべて準備期間」と言う理由は、その意識の高さにある。
所属ジムの本田明彦会長は「スピード、勘、目の良さ、頭の良さ、こんな選手はみたことない。必ず世界王者になる。100%保証するが、じっくり育てる」と強調。10戦目までは世界挑戦させない方針を示した。左拳の回復次第だが、次戦は24年1~2月を予定。「必ず日本に誇れるような人、日本中をかませるような男になる」と那須川。大きな可能性を見せながら最強王者の道を進む。【藤中栄二】
◆那須川天心(なすかわ・てんしん)1998年(平10)8月18日、千葉・松戸市生まれ。5歳で空手を始め、小学5年でジュニア世界大会優勝し、キックボクシングに転向。14年7月、15歳でプロデビュー。15年5月に史上最年少16歳でRISEバンタム級王座を獲得。16年からKNOCK OUT、RIZINと参戦。初代RISE世界フェザー級王者に。22年6月、K-1の元3階級制覇王者武尊を判定撃破。23年2月にボクシングB級(6回戦)プロテストに合格し同4月に判定勝利デビュー。家族は両親、妹2人、弟。身長165センチの左ボクサーファイター。
◆キック出身の主なボクシング世界王者 スーパーライト級王者としてムエタイ無敵を誇ったセンサク(タイ)は75年7月、転向3戦目でWBC世界スーパーライト級王者フェルナンデス(スペイン)に8回KO勝ちして世界王者になった。3戦目での世界王座奪取は今も最短記録となる。ムエタイ3階級制覇のウィラポン(タイ)は95年9月に転向4戦目でダオルン(タイ)に判定勝ちしてWBC世界バンタム級王座を獲得。現ウクライナのキーウ市長で元WBO、WBC世界ヘビー級王者のビタリ・クリチコ氏もキックからの転向組。ボクシング転向後、世界選手権スーパーヘビー級銀、プロでも世界一となった。

