WBC、WBO世界スーパーバンタム級王者井上尚弥(30=大橋)が史上2人目となる2階級での4団体統一に成功した。WBAスーパー、IBF世界同級王者マーロン・タパレス(31=フィリピン)と4本のベルトを懸けて拳を交え、10回1分2秒、KO勝ち。4回に連打でダウンを奪うなど、ダメージを蓄積させて倒した。テレンス・クロフォード(米国)に続き、史上2人目の快挙を成し遂げた。クロフォードを上回る最速(5年7カ月)で達成し、区切りの10本目となる世界ベルトを獲得した。

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最後は右拳で、相手の心を折った。10回、井上が右ストレートでタパレスのこめかみを打ち抜いた。ロープ際まで後退し、崩れ落ちた相手を確認した井上はコーナートップによじ登って喜んだ。バンタム級の4団体統一から1年後。井上は「1つ階級を上げて、また4本のベルトを集めることができた」とホッとした笑みを浮かべた。

4回には左、右、左の3連打でダウンを奪った。早期のKO決着を予感させたが、もう1人の統一王者に粘られた。接近戦もしながらワンツーなどでダメージを与え続け、最後の右強打で仕留めた。「手応えはなかったが(タパレスに)これだけダメージが蓄積されていたのかと。相手は一発のパンチもあったし、自分も非常にピリピリしながら試合を進めることができた」と冷静に振り返った。

クロフォードに続く2階級4団体統一となる。8年3カ月かけて達成したクロフォードに対し、井上はWBA世界バンタム級王座を獲得した18年5月を皮切りに5年7カ月と大幅に更新する最速記録。これで14年4月のWBC世界ライトフライ級王座獲得から区切りの10本目となる世界ベルト奪取となった。

11月、メキシコから呼んだ練習パートナーからスパーリングでダウンを奪った夜だった。井上は大橋秀行会長(58)に1通のメッセージを送った。「ダウンを取った後の自分の動きは大丈夫でしたか」。試合グローブ(8オンス)より大きい14オンスで、ヘッドギア装着の相手を右強打で倒しても満足せず、その後も緊張感を持って練習していたのかを確認した。大橋会長が「尚弥の意識、レベルは本当に違う」と目を丸くするほどの貪欲さは、相手の一瞬の隙も逃さない。必然の10回KO撃破とも言っていい。

1月のスーパーバンタム級転向表明から1年で同級最強を証明した。「今、適正階級はスーパーバンタム級だと思う。来年、再来年とこの階級でもっと強い姿をみせられるように精進したい」。既にWBAは元統一王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)、WBCは元同級王者ルイス・ネリ(メキシコ)を次期挑戦者として指名。SNSなどで多くの次戦情報が飛び交うが、井上は「5月にうわさされる試合が実現するかどうかは、これから交渉を詰めていくところ。ファンが喜ぶ、見たいという試合を実現したい」と期待感。誰もたどり着けない舞台まで-。井上が「最強」を更新する旅は24年も続く。【藤中栄二】

◆2階級での4団体統一メモ テレンス・クロフォード(米国)がスーパーライト級、ウエルター級で史上初めて達成。スーパーライト級は15年4月に王座決定戦でWBO王座を獲得し、16年7月にWBC王座を追加。17年8月にWBA、IBF王者ジュリアス・インドンゴ(ナミビア)に3回KO勝ちし4団体統一。ウエルター級は18年6月にWBO王座を獲得し、23年7月に3団体統一王者エロール・スペンスJr.(米国)を9回TKO撃破し4団体統一。2階級の4団体統一を成し遂げるまでに8年3カ月かかった。井上が最初にバンタム級の王座をつかんだのは18年5月25日のWBAマクドネル戦。22年12月13日にバトラーに勝利し同級4団体統一。スーパーバンタム級では23年7月25日のフルトン戦でWBCとWBOのベルト獲得。この日、5年7カ月での史上最速達成となった。

【ライブ詳細】井上尚弥が史上2人目の2階級4団体統一!右ストレートでタパレスを10回KO