<ノア:東京大会>◇2日◇日本武道館◇1万4000人

 新時代到来だ。GHCヘビー級挑戦者の森嶋猛(29)が、同王者・三沢光晴(45)を20分22秒、バックドロップからの片エビ固めで下し、12代目の王者に輝いた。三沢戦、同選手権試合いずれも3度目の挑戦でつかんだ栄冠。ラリアットとエルボーの応酬で両者意識が飛び、試合後、お互い救急車で都内の病院に搬送されるほどの死闘を制した。日本武道館での三沢のファイトにあこがれた柔道青年が、ついにノアの頂点に立った。

 身長190センチ、体重145キロの肉体がリング上で躍動した。倒れても倒れても起き上がる不屈の王者に、最後は必殺のバックドロップ3発をたたき込み、勝負を決めた。「また起き上がってくると思った。エルボーをもらって途中で記憶が飛んだ。王者の偉大さを感じました」。息絶え絶えでつかんだベルトだった。

 勝因を「場数」と表現した。昨年2月、米ROHに参戦。日本人初の同ヘビー級王者となった。日米を往復しながら20度の防衛に成功。ベルトを取って逆上陸したことから「クロフネ」の異名がついた。「時差でほとんど眠らずにリングに立った。あれに比べれば日本のシリーズは恵まれている」。アウエーのブーイングの中で、精神面も鍛えられた。

 もともと格闘素質は抜群だった。東京学館浦安高では柔道部に所属。3年時の総体地区予選決勝で、当時の県王者を場外で払い腰で投げ飛ばし、テーブルを壊すという逸話もある。「柔道を続けていれば世界王者になれた」と同高柔道部・阿部新二監督(50)。8大学から誘われた。日大レスリング部にも練習参加。並み居る大学生を次々と投げ飛ばし、当時同大総監督で現在JOC選手強化本部長の福田富昭氏(66)から「大学で4年間やってからでも遅くないんじゃないか」と勧誘された。

 それでも森嶋は三沢のファイトにあこがれてプロレス界入りを決意した。この日、その王者からベルトを奪取。「試合には勝ったけど存在感ではまだまだ及ばない。でもこれからどんどん自分色に染めてプロレスを面白くします」。ノアの「クロフネ」が新時代に向かって大きくかじを切った。【塩谷正人】