遅ればせながら「無冠の大関」が優勝の2文字を手中にした。トーナメントで争われる第75回全日本力士選士権大会が3日、両国国技館で行われ、稀勢の里(30=田子ノ浦)が、大関対決の決勝で照ノ富士を寄り切りで破り初優勝した。9月の秋場所は、10勝5敗で綱とりが消滅。一からのスタートを切った大関が、再挑戦への足がかりをつかんだ。

 これが8日前に終わった秋場所で実現してたら…。ファンが抱く無念の思いをかき消すように、痛いほどの声援が稀勢の里の背中に飛んだ。「優勝だ!」「次は横綱だ!」。初戦の玉鷲戦から5連勝。あれほど渇望した「優勝」の2文字をグイと引き入れた。

 成績が番付に反映されない花相撲。たかが…と割り切らず、稀勢の里らしく素直に受け止めた。「歴史あるもので名前が残る。決勝の緊張感を味わえたのはいい経験と思って、しっかり生かしたい」。

 この半年間の重圧から解放され心はリセットした。故郷に近い10日の茨城・土浦巡業を控え「(夢をかなえた)いい状態で行きたかったけど叱咤(しった)激励と受け止める」。稽古に臨む心も「稽古場から勝負は始まっている。そんな気持ちでやりたい」と整え、再出発も「自分を信じてやれば必ず生きてくるという気持ちでやる」。大願成就は白紙に戻ったが、得たものは無駄にしない。