初場所で初優勝した大関稀勢の里(30=田子ノ浦)の第72代横綱昇進が事実上、決まった。東京・両国国技館で23日に開かれた横綱審議委員会で、満場一致で横綱に推挙された。25日の春場所番付編成会議と臨時理事会で正式に誕生。昇進伝達式は異例の高級ホテルで開かれることになった。

 威風堂々と会見場に現れた稀勢の里の表情は、引き締まっていた。満場一致で推挙された横綱昇進。伝え聞くと「グッと気が引き締まりました」。喜びよりも責任。それを味わおうとしているようにも映った。「もっともっと努力しないといけない。稽古場の立ち居振る舞いも生き方も、周りから見られている。中途半端な気持ちでいられない」。既に「横綱」という頂点に就く自覚が芽生えていた。

 若乃花以来19年ぶりの日本出身横綱誕生には、かつてない目が注がれた。朝の優勝一夜明け会見には約100人の報道陣が集まり、東京・江戸川区の部屋がパンク。多くの記者が外にあぶれた。横審の答申を受けた夕方の会見は急きょ、区内の施設に移った。そして、25日の昇進伝達式はもっと異例の場が用意された。都内の高級ホテルだった。

 第44代横綱栃錦に始まる55年以降の横綱昇進伝達式は、部屋か地方場所の宿舎だった。鶴竜だけが宿舎寺院の「別館」から「本館」に移ったが、高級ホテルでの伝達式は異例。そこには盛大に祝福したいという支援者の願いも込められている。「支えられてばかり。その人たちの顔を見て思い出したら、きついことも我慢できた」と感謝した。

 朝の会見で「(横綱は)責任ある地位だし、負けたら終わり」と言った。その上で、これから背負う角界全体にも思いをはせる。「若い力士を引っ張っていくのも僕のできること。高安を引っ張り上げて大関に引き上げるのも自分の使命」。頼もしい言葉が並んだ。

 亡き先代師匠の鳴戸親方(元横綱隆の里)と同じ30歳での新横綱は、まるで運命。「感謝以外、見つかる言葉がない。そう思うと浮かれていられない。もっともっと強くならないと本当の恩返しにならない」。15歳から鍛え上げてくれた先代の「ここからが本番だ」という声が聞こえる。「自分でもそう思っています」と返した。【今村健人】