とにかく大変な15日間だった。大関昇進のかかった11年11月の九州で稀勢の里を担当した。場所直前に師匠である先代鳴戸親方(元横綱隆の里)が急死。ただでさえ口数少ない稀勢の里は、とことん貝になった。

 何とかコメントを引き出したい。普段は大好きなアメリカンフットボールの話題に乗ってくる。彼はNFLニューヨーク・ジャイアンツのファンだ。だが、この時ばかりは突破口にならない。白星後も蚊の鳴くようなつぶやきばかり。笑顔はない。「勝って笑うな」が師匠の教えだった。

 「自分を信じろ」「大きな相撲を取れ」。そんな先代の言葉を頭の中で繰り返していたのだろう。いるはずの人がいない。孤独と闘う日々。びりびりとした緊張感に包まれ、こちらも固唾(かたず)をのんで取組を見守った記憶がある。

 大関昇進を決めたが、千秋楽は琴奨菊に敗北。支度部屋で1時間ほど押し黙ったのも印象深い。「きっと今日の負けを怒っていると思う」と、天国の親方の顔を思い浮かべていたのだった。精神面の弱さを指摘されるが、師匠の死という試練を乗り越えた強さは本物だと思っている。【11~12年大相撲担当・大池和幸】