8場所連続休場から復活を目指す横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)が、優勝した昨年3月の春場所以来、9場所ぶりの勝ち越しに王手をかけた。同場所から1年半遠ざかっていた大関戦で栃ノ心を寄り切り。得意の左四つに持ち込むと、怪力相手にも力勝負で負けなかった。負ければ今場所初の連敗となる危機を脱し、7勝2敗とした。

今できるすべてを出し切って、稀勢の里が勝った。3横綱の先陣を切って組まれた大関戦は、今場所最多50本の懸賞がついた結びの一番で行われた。見せ場なく敗れた、中日の玉鷲戦ではできなかった、頭からぶつかる立ち合いで先手を取った。けんか四つの栃ノ心に、左をねじ込むと右上手を引いた。互いに左下手を取ると、怪力大関に何度も下手投げを打たれたが腰を落として我慢した。焦らず、じわじわと土俵際に追い詰めて寄り切り。9日目にして、攻守一体となった本来の勝ち方で勝った。

取組前から落ち着いていた。玉鷲戦は、立ち合いに圧力のある相手を意識しすぎ、1度目は突っかけた。だが、立ち合いの低さ、鋭さなら負けない栃ノ心には、思い切り頭からぶちかました。支度部屋では「頭から当たって良い流れだったが」という報道陣の質問に「うん」と言って、うなずいた。納得の内容だった。審判として土俵下から見守った貴乃花親方(元横綱)も「表情も落ち着いていて頼もしい。今場所一番の気迫だった。左を差して自分の形。攻められても慌てない。とにかく威力、実力がある」と絶賛した。

3連敗中と得意とはいえない栃ノ心に、真っ向勝負を仕掛けた。直近は昨年名古屋場所で、当時平幕の相手に金星を配給した。5月の夏場所前は、稽古総見で勝てずに2連敗。翌日に出稽古に訪れたが2勝9敗と返り討ちにあい、夏場所休場を決める要因となった。得意の形に持ち込んでの快勝は最高の雪辱となった。

今日10日目は平幕遠藤の挑戦を受ける。「やるべきことを、しっかりとやっていきたい」。7日目まで逆転に次ぐ逆転で白星を拾ってきた稀勢の里に、先手、先手のパターンも戻った。勝ち越した先が、少しずつ見えてきた。【高田文太】